今を生き、変化し続けることを恐れない強さを持つ

『アクトレス ~女たちの舞台~』の制作に至る経緯はどのようなものだったのだろうか。アサイヤス監督は「ビノシュとは知り合ってから長い。その2人の関係を反映するような映画を一緒に作りたいと話していて、では脚本を書いてみようということで取り組んだのがこの作品。もともとこの映画のインスピレーションを与えてくれたのは彼女なのです」と振り返る。

苦悩するマリアに、示唆に富む言葉を与えるヴァレンティン(右)がこの映画のキー。アメリカの人気映画シリーズ『トワイライト』でアイドル的人気を博したクリステン・スチュワートが本作で新境地を開拓し、米国人女優として初めて仏セザール賞を受賞した。

複雑な女性心理を浮き彫りにした脚本を、男性のアサイヤスが書き上げることができたのは、ビノシュの意向が反映された結果なのかと思いきや、「書き終わるまで作品のテーマは明かさなかった」というから、女心の機微への観察眼に驚く。

「この作品に、ビノシュは惜しむことなく自分を投影してくれました。彼女がこの映画を内側から豊かにしてくれたと思っています」。実際に大女優であるビノシュが、体を張って女優の光と影を晒すことをよく承知したもの。「これは“成熟”という問題を自らに提起している、今のビノシュのポートレートなのです」と、アサイヤス監督はビノシュに敬意を込めて言葉をつないだ。

あらゆるプロの力で成り立つ総合芸術・映画。アサイヤス監督が心がけているのは、「指揮するのではなく、協力する意識」だそう。「私にできることは、一人ひとりに仕事で貢献できる“空間”を与えてあげること。すると皆が自分を解放して、作品に豊かなものをもたらしてくれる」と言う。

作品は、美しいスイスの自然を収めた映像美、BGMに使われる厳かなクラシック音楽、そしてシャネルが全面協力した衣装やメイクも大きな見どころだ。また現実にハリウッドで活躍中の人気若手女優、クリステン・スチュワートやクロエ・グレース・モレッツとの競演とあって、リアルなバックステージものの緊張感も楽しめる。

この映画が語る人と時間との関係は、皆に等しく訪れる問題だ。自分と向き合い、これまでとは違う価値観を受け入れ、自分自身を変化させていけるかどうか。日本人であっても、フランス人であっても、たとえ大女優であっても、エイジングに向き合い、乗り越えて生きていくのは同じなのだと教えてくれる。

映画のラスト、くだんの舞台のリハーサルに臨むマリアは、序盤の彼女から明らかに変化している。 新しいショーの幕開けを告げるブザーが鳴る時、彼女の表情から読み取るメッセージは観る者一人ひとりで違うはず。マリアは、マリアであると同時に、すべての女性たちの分身でもあるのだ。

『アクトレス ~女たちの舞台~』

原題:Sils Maria
脚本・監督:オリヴィエ・アサイヤス
出演:ジュリエット・ビノシュ 、クリステン・スチュワート 、クロエ・グレース・モレッツ 、ラース・アイディンガー 、ジョニー・フリン 、アンゲラ・ヴィンクラー 、ハンス・ツィシュラー
配給:トランスフォーマー
2014年/フランス・スイス・ドイツ/124分

10 月24日(土)より ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿シネマカリテほか全国順次公開
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