『グリーン ブック』
1962年、ニューヨークのナイトパブ「コパカバーナ」で用心棒を務める、がさつで無学のトニー・リップ(ヴィゴ・モーテンセン)。パブの改装に伴い2カ月間、トニーはある黒人ピアニストに、コンサートツアーの運転手として雇われる。彼の名は、ドクター・ドナルド・シャーリー(マハーシャラ・アリ)。巨匠ストラビンスキーから「神の域の技巧」と絶賛され、ケネディ大統領のためにホワイトハウスでも演奏するほどの天才ピアニストなのだが、なぜか黒人差別が色濃く危険な南部をめざしていた。黒人向け旅行ガイドブック『グリーン ブック』を頼りに、ふたりは南部ツアーへと出発するが――。
アカデミー賞3部門受賞! 感動の実話
本年度のアカデミー賞の「作品賞」「脚本賞」「助演男優賞」の3部門、ゴールデン・グローブ賞「コメディ・ミュージカル作品賞」「助演男優賞」「脚本賞」を受賞した『グリーン ブック』。2018年11月に全米で公開されてから、興行収入もうなぎ登りだった作品だ。賞レースでも話題になった本作のジャンルは、コメディ・ミュージカル作品に分類されているが、人種差別問題がテーマの実話を描いたロードムービーでもある。
監督は、『ジム・キャリーは、Mr.ダマー』『メリーに首ったけ』でもおなじみの、ピーター・ファレリー。コメディ映画の名手として評価されていることから、本作も「コメディ作品」と思い込んで鑑賞する人もいるかもしれない。アカデミー賞各賞を受賞後は各方面から賛否両論の声が上がったが、そうした議論を抜きにしても純粋に「おもしろい」作品だと思える。
天才的な黒人ピアニスト、ドクター・ドナルド・シャーリー(通称:ドン・シャーリー)のツアー運転手に雇われたトニー・バレロンガ(通称:トニー・リップ)は、イタリア系移民の白人だ。保守的な家庭で育った彼は、黒人の運転手兼用心棒になることに抵抗を感じるが、家族を養うため背に腹は替えられず、給料もいいため渋々仕事を引き受ける。差別の色濃い南部での宿泊や食事には、「黒人OK」の場所が必須。頼りは、黒人向け旅行ガイドの『グリーン ブック』だ。
トニーとドン・シャーリーは、育ちや教養まで何から何までまったくの正反対。映画のジャンルが、コメディに分類されているのも納得できるほど、笑えるシーンは山ほどある。が、物語が進むごとに人種差別の厳しい現実が次々と現れてきて胸が痛む。