天才の苦悩と孤独、差別の実態が見えてくる

黒人差別・性的マイノリティ差別……。ドン・シャーリーは天才と呼ばれ、有名音楽学校を主席で卒業し、さらにケネディ大統領の前でも演奏するほど、その才能は認められている。にもかかわらず、この時代のアメリカ(特に南部)では、どんなに素晴らしいアーティストであっても、演奏場所以外では黒人というだけで、ホテルやレストラン、トイレまで白人とは別にされてしまうのだ。

当初は、黒人のために働くなんてと思っていたトニーも、彼の天才ぶりと、さらに人種差別を目の当たりにすることで、自分の中にあった偏見に気づかされていく――。と、ストーリーがばれるので、まだ観ていない人は、続きは映画館でぜひご覧を! 美しいピアノのメロディも感動もの!

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妻ドロレスに「人間」の理想の姿を見た!

この映画では、トニーの妻・ドロレス(リンダ・カーデローニ)に注目してみたい。

イタリア系の家族や親戚、友人たちが黒人を差別しても、彼女自身は彼らに対する差別や偏見をまったく持ち合わせていない。「良識がある」というよりも、はなから多様性を受け入れているのだ。彼女が生まれ育った環境がとても気になる。

さらに彼女は、がさつで無教養で乱暴者のトニーを心から愛している。私だったら、彼がそんながさつで乱暴で無教養で偏見的な人間だったら、すぐに大ゲンカして別れるのがオチだ。でも彼女はそうではない。彼のすべてを受け入れ、彼の手紙を待ちわびている。そして、その手紙の文章がトニー自身のものでないと知っていても、決して鬼の首を取ったように夫を責め立てたり、笑ったりしない……彼女の爪の垢を煎じて飲みたいくらい……まさに理想の女性を演じきっている。まあ、これは男性から見た理想の妻像かもしれないが、「妻として」「女性として」というより「人として」見習わねばと思える。

もしあの時代のアメリカで生きていたとしたら、当たり前のように周囲に流されただろうか……そして、今、自分の中にほんの少しでも、何かに対しての偏見や差別意識がないだろうかと考えさせられる1本。

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『グリーンブック』©GAGA
●監督:ピーター・ファレリー●出演:ヴィゴ・モーテンセン、マハーシャラ・アリ、リンダ・カーデリーニほか●配給:ギャガGAGA ©2018 UNIVERSAL STUDIOS AND STORYTELLER DISTRIBUTION CO., LLC. All Rights Reserved.●2019年3月1日(金)より、TOHOシネマズ日比谷ほか、全国ロードショー公開中! 公式サイト