映画人にとっての伝説の劇場
いくつもの湯煙が立ち昇る、日本きっての湯処・大分県別府市。駅からメイン通りを緩やかに下ると、別府で唯一の映画館「別府ブルーバード劇場」が右手に見える。
この映画館こそ、映画人にとっての“パワースポット”との異名を持ち、全国からこの場所を目指してわざわざ客が訪れるという“伝説の劇場”だ。
それはひとえに、今月28日に95歳を迎える3代目館長、岡村照さんの存在があればこそ。岡村さんは女手一つで50年以上、一人で劇場を守ってきた。入り口から階段を登って、2階になる劇場の扉を開ければ毎日、陽気な笑顔をたたえ、切符売り場に座っている岡村さんに会うことができる。
創業は1949(昭和24)年、岡村さんの父、中村弁助さんが現在地に開業し、夫である昭夫さんが2代目館長として引き継ぎ、そして3代目館長を継いだ岡村さんこそ、ブルーバード劇場の代名詞であり、“看板娘”だ。
ひと眼見ただけで、とてもおしゃれな人だとわかる。この日は桜色のセーターにエレガントな襟のついた桜色のジレを羽織り、ボトムスは黒のパンツ。セーターのフロントには黒の花模様が散りばめられており、ボトムスとのトータルコーディネートが素晴らしい。
華やかで、ふんわりとした春らしい装いに、チャーミングでいたずらっ子のようなキュートな笑顔の持ち主だった。飾らない人柄そのままの、かわいらしい笑顔。きっと映画関係者もお客も、この笑顔に会いにくるのだ。そして誰もが親しみを込めて、「照さん」「照ちゃん」と呼ぶ。
映画に魅せられた“映画館の娘”
生まれは1931(昭和6)年。映画好きの父に連れられて、小さい時から映画館の空気を呼吸していた少女だった。
「上原謙さんと田中絹代さんの『愛染かつら』とか、恋愛ものが好きでねー。“おませさん”って、言われよった」
『愛染かつら』の上映は、1938年。照さん、わずか7歳。この歳にして、身分違いの悲恋に心をつかまれるとは、恐るべし。
10歳で太平洋戦争が始まり、女学校時代の14歳で終戦を迎えた。
「戦争中の映画は、ニュースばっかり。どこで日本軍が勝ったとか、いいところばっかり映してね。戦後になって印象に残っているのは、外国映画の『黒水仙』とか、ジョン・ウェインのウエスタンものとかね」