「そもそも」何に悩んでいるの?

先ほどの会話の後、Bさんは○○社に電話をかけてみました。しかし、やはりCさんは休暇を取っていました。そこでAさんはBさんと問題を共有するために質問することにしました。

A「少し状況を整理したいんだけど、私たちは今、何で困っているの?」
B「今週中に○○社のCさんから返事をもらう必要があるんですが、Cさんがお休みに入っていて連絡が取れないからです」
A「メールを送っているんだよね。Cさんはそれを読んで返信してくれないかな?」
B「Cさんとその上司のDさん宛にメールを送っているんですが、〇〇社に電話で確認したところ、Cさんは昨日の昼過ぎからお休みを取っていて、多分メールは見ていないんじゃないかということでした……」
A「それじゃあBさんはどうしたらいいと思う?」
B「先方にCさんの休暇中の連絡先を教えてもらう、というのはどうでしょう?」
A「うーん、それはちょっとなぁ……」

どうやら物事の因果関係や方法を問うロジカルシンキングの視点から聞いてみても、あまり進展はないようです。そこで、Aさんは違った角度から質問してみることにしました。

A「今、私たちってCさんに連絡が取れなくて困ってるんだよね?」
B「……はい」
A「そもそも私たちはなんでCさんから返事をもらおうとしているんだっけ? 本当にCさんから返事をもらわないといけないのかな?」
B「あっ! この件についてはCさんの上司のDさんがOKかNGかの最終判断をしています。Dさんは打ち合わせにも同席していますし、メールでのやりとりにもCCで加えています。経緯もご存じですので、Dさんからお返事をいただけるかもしれません」

いかがでしょうか。今回の例では、AさんがBさんに3つのポイントから質問をしました。「そもそも、それをすることにどんな意味があるのか(行動理由を問う)」、「他に変えられないのか(代替可能性を問う)」、そして「それは本当に必要か(必要性を問う)」という問いです。もしここでロジカルシンキングに基づき因果関係や方法論を聞き続けていたら、どうなっていたでしょう?

私たちは問題に直面したとき、その問題ばかりをに注目し過ぎてしまい、そもそもなぜそれを解決しなければいけないのかを忘れがちです。ロジカルシンキングは問題そのものを深掘りする場合には有効ですが、それだけでは問題が解決しないことがあります。そんなとき、前提を疑う「そもそも」の質問をすることで、自分たちが本当は何に取り組もうとしているのかを明確にすることができるのです。

これまで連載第1回から第3回にわたり、人を動かすために必要な要素として「問題を共有する」ことについてご紹介してきました。しかし、現実には問題や事情が十分に共有されていても、人が動かないということがよくあります。そこにはもう1つの要素である、「やる気」の問題が絡んでくるからです。次回は「人を動機づけ、やる気にさせる」質問についてご紹介します。

清宮 普美代(せいみや・ふみよ)

株式会社ラーニングデザインセンター代表取締役、日本アクションラーニング協会代表、OD Network Japan 理事、WIAL公認マスターALコーチ、青山学院大学経営学部 客員教授。
東京女子大学文理学部心理学科卒。毎日コミュニケーションズ(現:マイナビ)にて事業企画や人事調査などに責任者として携わった後、渡米。ジョージワシントン大学大学院人材開発学修士取得。マーコード教授の指導のもと、アクションラーニングの調査・研究を重ねる。帰国後、2003年株式会社ラーニングデザインセンターを設立。著書に、『質問会議』(PHP研究所)、『「チーム脳」のつくり方』(WAVE出版)、『対話流』(三省堂)、『20代で身につけたい質問力』(中経出版)。