指示や依頼をしても部下が動いてくれない。そんなとき“人を動かすためのツール”としておすすめしたいのが「質問」です。質問にはさまざまな力や使い方がありますが、ここではロジカルシンキングとラテラルシンキングという2つの視点から問題状況についての理解を整理し、互いの認識をすり合わせるように問いかけていくという方法をご紹介します。前回のロジカルシンキングに続き、今回はラテラルシンキングに基づく「質問」について、事例を交えながら見ていきましょう。

なぜボタンの掛け違いが起こるのか?

日々の仕事の中で、伝えようとした内容と実行された内容にズレが生じることはありませんか? 伝えたはずなのに伝わっていない、間違って伝わっている、意図とは異なる受け止め方をされてしまう。私たちが他者と協働しながら仕事をするとき、このような「ボタンの掛け違い」は単なる伝達ミスにはとどまらず、大きな問題になりかねません。

言葉としては伝わっているのに、それを踏まえて取られる行動が自分の意図したものとは 違っている。そんな「ボタンの掛け違い」を解決するには、どうしたらいいのでしょうか?

こうした状況はなぜ発生してしまうのでしょうか? それは、伝えられた情報の文脈や背景にある枠組みが共有されていないからです。残念ながら、与えられたすべての情報をそのまま受け止めることは非常に難しいことです。なぜなら人は目の前にある情報を適度に、そして無自覚に取捨選択しながら生きているからです。ですから、話し合っている内容についての土台が共有されていないと、すれ違いが起きてしまうのです。

かみ合わない会話の原因は?

では、文脈や認識の枠組みが共有されていないと、どのようなことが起こるのでしょうか。

A「Bさん、この間お願いした○○社の件だけどさ、どうなってる?」
B「今、××社の対応をしているので、その後に連絡する予定です」
A「了解。じゃあ、後、よろしくね」

~翌日~

B「Aさん、○○社の件ですが、昨晩メールを送っておきました」
A「え? 昨日電話したんじゃなかったの?」
B「いえ、昨日は××社の対応で手いっぱいで……」
A「○○社の担当のCさんは今日あたりから長期休暇だって聞いたけど?」
B「え、そうなんですか? いつまでお休みなんですか?」
A「来週いっぱいって言ってたかな。困ったね、今週中には返事がほしいんだけど……」

AさんとBさんとで“物事の優先順位”と“期待していた/されていた行動”に対する理解にズレがあるように見えます。なぜこのようなズレが起こってしまったのでしょうか? AさんとBさんは互いの発言に対して異なる認識をしていますが、ズレの原因がどこにあるか、分かりますか?

まず、AさんがBさんに期待していたのは、取引先のCさんから1)今週中に、2)返事をもらうために、3)昨日中に電話をするということでした。一方、Bさんは1)昨日中に、2)情報を伝えるために、3)メールを送ればよい、と思っていたようです。この例では情報の伝達以前に、互いに相手の発言の前提を十分に共有できていなかったところに問題があります。こうした状態では、何度コミュニケーションを重ねてもミスが発生してしまいます。

では、どうしていけばよいのでしょうか?

問題を捉え直すために、「そもそも」を問う

私たちの日常は問題解決の連続ですが、問題の全体像を共有していないと他者とうまく協働することはできません。連載第2回「指示が伝わらない! あなたと部下は本当に同じ“もの”を見ていますか?」(http://woman.president.jp/articles/-/562)で、問題の全体像をとらえるためには因果関係や方法を問う論理思考=ロジカルシンキングが有効だとお伝えしました。今回はそれとは違ったアプローチとして、水平思考=ラテラルシンキングという考え方をご紹介します。

ラテラルシンキングとは問題とされている枠組み自体を疑い、視点を変更することによって新しいアイデアの獲得を目指すアプローチです。視点を変えるうちの1つである「前提を疑う」とは、簡単に言えば問題の「そもそも」を問うことです。

つまり、1つの物事を垂直に深く掘り下げる方法がロジカルシンキングであるならば、異なるベクトルに考えを拡散させ、まったく異なる解決策を考える方法がラテラルシンキングです。ラテラルシンキングに基づいた視点から問いかけることによって、ロジカルシンキングとは異なる形で他人と問題の全体像を共有し、自分たちがどのような文脈で話をしているのかをつかむことができるようになります。

ラテラルシンキングにおいては、例えばブレーンストーミングのように、連想されるものを次々に挙げることで発散していったり、「そもそも」の前提を疑いながら今あるものと異なるものとを組み合わせたりして、新しい視点を生み出していきます。

それでは、実際にはどのようにラテラルシンキングを用いて「前提を問う」ことで、新しい視点での問題の共有ができるのでしょうか?

「そもそも」何に悩んでいるの?

先ほどの会話の後、Bさんは○○社に電話をかけてみました。しかし、やはりCさんは休暇を取っていました。そこでAさんはBさんと問題を共有するために質問することにしました。

A「少し状況を整理したいんだけど、私たちは今、何で困っているの?」
B「今週中に○○社のCさんから返事をもらう必要があるんですが、Cさんがお休みに入っていて連絡が取れないからです」
A「メールを送っているんだよね。Cさんはそれを読んで返信してくれないかな?」
B「Cさんとその上司のDさん宛にメールを送っているんですが、〇〇社に電話で確認したところ、Cさんは昨日の昼過ぎからお休みを取っていて、多分メールは見ていないんじゃないかということでした……」
A「それじゃあBさんはどうしたらいいと思う?」
B「先方にCさんの休暇中の連絡先を教えてもらう、というのはどうでしょう?」
A「うーん、それはちょっとなぁ……」

どうやら物事の因果関係や方法を問うロジカルシンキングの視点から聞いてみても、あまり進展はないようです。そこで、Aさんは違った角度から質問してみることにしました。

A「今、私たちってCさんに連絡が取れなくて困ってるんだよね?」
B「……はい」
A「そもそも私たちはなんでCさんから返事をもらおうとしているんだっけ? 本当にCさんから返事をもらわないといけないのかな?」
B「あっ! この件についてはCさんの上司のDさんがOKかNGかの最終判断をしています。Dさんは打ち合わせにも同席していますし、メールでのやりとりにもCCで加えています。経緯もご存じですので、Dさんからお返事をいただけるかもしれません」

いかがでしょうか。今回の例では、AさんがBさんに3つのポイントから質問をしました。「そもそも、それをすることにどんな意味があるのか(行動理由を問う)」、「他に変えられないのか(代替可能性を問う)」、そして「それは本当に必要か(必要性を問う)」という問いです。もしここでロジカルシンキングに基づき因果関係や方法論を聞き続けていたら、どうなっていたでしょう?

私たちは問題に直面したとき、その問題ばかりをに注目し過ぎてしまい、そもそもなぜそれを解決しなければいけないのかを忘れがちです。ロジカルシンキングは問題そのものを深掘りする場合には有効ですが、それだけでは問題が解決しないことがあります。そんなとき、前提を疑う「そもそも」の質問をすることで、自分たちが本当は何に取り組もうとしているのかを明確にすることができるのです。

これまで連載第1回から第3回にわたり、人を動かすために必要な要素として「問題を共有する」ことについてご紹介してきました。しかし、現実には問題や事情が十分に共有されていても、人が動かないということがよくあります。そこにはもう1つの要素である、「やる気」の問題が絡んでくるからです。次回は「人を動機づけ、やる気にさせる」質問についてご紹介します。

清宮 普美代(せいみや・ふみよ)

株式会社ラーニングデザインセンター代表取締役、日本アクションラーニング協会代表、OD Network Japan 理事、WIAL公認マスターALコーチ、青山学院大学経営学部 客員教授。
東京女子大学文理学部心理学科卒。毎日コミュニケーションズ(現:マイナビ)にて事業企画や人事調査などに責任者として携わった後、渡米。ジョージワシントン大学大学院人材開発学修士取得。マーコード教授の指導のもと、アクションラーニングの調査・研究を重ねる。帰国後、2003年株式会社ラーニングデザインセンターを設立。著書に、『質問会議』(PHP研究所)、『「チーム脳」のつくり方』(WAVE出版)、『対話流』(三省堂)、『20代で身につけたい質問力』(中経出版)。