机の整理整頓で脳活性。作業興奮の仕組みとは
脳の最深部には脳幹があり、その外側に大脳辺縁系、一番外側に大脳新皮質がある(図を参照)。人は五感を介して外部からの情報を得るが、そのルートは、脳幹→大脳辺縁系→大脳新皮質である。そして朝目覚めた脳もこれと同じ順番で覚醒していく。いきなり脳の機能が全開になるのではなく、最深部の脳幹から徐々に立ち上がる。部屋や机の上の片付けをてきぱきこなせば、その作業興奮で脳が活性化しウオーミングアップになるというわけだ。
「人間の脳ってヘンなもので、小さな任務でも完了させると気持ちいいと感じるんです。簡単なことでも量的にこなせるとうれしい。それが自分への精神的なご褒美になって、脳のエンジンギアが一段も二段も上がって、その後の仕事がうんとはかどる。会社に到着して、机の上を整理整頓することも、同じように作業興奮による脳のパワーアップ作用が期待できます」
では、口を動かせとはどういうことか。もちろんこれは、ただ一方的に話せばいいというわけではない。家族や同僚などと“雑談”する感覚が大切だという。ポイントは、決して立て板に水のトークスキルはいらないし、特に人をひきつける興味深い中身も、オチもいらないということである。
「朝の挨拶に加えて、一言二言何か話すんです。このプラスαの言葉を話すという習慣は、脳のリハビリのような働きがあります。言葉は何でもいいです。『おはよう。今日も暑いね~』とか『お疲れさま~。昨日の仕事は大変だったね』とか。天気でも、テレビ番組のことでもいい。そこから、言葉のやりとりが続きますよね。相手が話し始めたら、今度は聞けばいいんです」
なぜ、朝の雑談が脳にいいのか。
「音読の効果に似ていますが、口の運動は、つまり脳からの言葉の出力(話す)や脳への入力(聞く)、そして会話の情報処理・理解という連続した行為を伴います。口と前頭葉を使って大まかに言葉を組み立てる、耳と前頭葉を使って情報を得る。込み入った仕事の話をするにはまだ脳の覚醒度が不足していますが、雑談なら大丈夫です」
社内コミュニケーションはもっぱらメールやフェイスブックといったSNSという現代社会において、直接「話す・聞く」総量が以前より減っているのは確か。無駄なものが省かれすぎて殺伐とした雰囲気になっているケースも少なくない。そのような状況で、朝の雑談はオフィスや家庭内の人間関係の潤滑油となり、脳のアイドリング(準備運動)ともなるというわけである。