過去から発想するか、未来から発想するか

鈴木氏はコンビニの経営においても、今どんなに売れている商品であっても、満足のいくレベルに達していなければ、「売れれば売れるほど、セブン-イレブンの商品はこんなレベルかと失望される」と、その商品を店頭から即刻撤去させ、ゼロからのつくり直しを指示する。これも、「過去が今を決めるのではなく、未来というものを置くことによって、過去が意味づけされ、今が決まる」という考え方からだ。

今回鈴木氏が提案したセブン-イレブン・ジャパンの井阪隆一社長を退任させる案も、まったく同じ発想から出てきたもののように私は感じる。一方で、同社の指名・報酬委員会において社外取締役が「5期連続最高益を実現した社長を辞めさせるのは世間の常識が許さない」と鈴木氏の案に反対したのは、過去の延長線上での発想であった。「世間の常識」は常に過去の延長線上で考えるものだからだ。

鈴木氏は、「この先、顧客のニーズがさらに変化していったとき、井阪氏が社長の体制では対応していくことは難しい」と未来から発想し、社長交代を考えたのだろう。もちろん、この点については井阪氏も「自分には対応する力がある」という言い分や反論もあるだろう。しかしいずれにしても、社外取締役による過去の延長線上の発想と、鈴木氏による未来からの発想では合意に至るわけがなかった。

鈴木氏は井阪氏の退任について、社外取締役の了解を得たうえで、取締役会で決議しようとした。その際、予想外だったのが、創業オーナーからの「NO」の回答だった。これまで創業オーナーは、セブン-イレブン創業も、セブン銀行設立も、本心では反対であっても、「会社の未来」を鈴木氏の経営手腕に託し、信任してきた。その歴史は、鈴木氏が30歳でイトーヨーカ堂へ転職してから半世紀以上に及ぶ。にもかかわらず、今回初めて鈴木氏への信任を拒否したのは、創業オーナーの側で「会社の未来」とは別に優先すべき何かの事情が生じたのだろう。それを、鈴木氏は「時代が変わった」「世代交代」と表現したが、具体的には触れなかった。