ところで医療における性差を考えるときに注目すべき点の1つに、超高齢化社会を迎えた日本の認知症患者の問題がある。

厚生労働省は今年1月に認知症患者は団塊の世代が75歳以上になる10年後の2025年には約700万人に達するという推計を公表した。12年の時点で認知症の人は462万人、65歳以上の有病率は15%なので25年には240万人近く増え、65歳以上の高齢者の5人に1人が認知症患者だということになる。

この認知症の中で最も多いアルツハイマー型認知症は、男性より女性に多く見られ、脳の機能の一部が萎縮していく。比較的男性に多く見られる血管性認知症は、全体的な記憶障害ではなく、一部の記憶は保たれている「まだら認知症」が特徴的だ。

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長生きする女性は、ボケない努力を

いずれにしろ認知症は男女とも加齢にともない有病率が高くなる。厚生労働省認知症対策総合研究事業の調査によれば、75歳までは男女とも患者数の割合はほぼ一緒に上昇し、75歳で認知症の有病率は約10%になる。ところがさらに高齢になるにしたがい、女性患者の割合は男性に比較して高くなる。男性は90歳で約40%だが、女性は約60%まで増加する。そして90歳を過ぎると男性は約50%、2人に1人状態で横ばいに推移するが、残念なことに女性は右肩上がりを続け、95歳を超えたら75%の女性が認知症になる。その性差の原因についてはわかっていないが、一般に、変化に乏しい生活を送る人が認知症になりやすい。「男性は長生き」を「女性は認知症予防」を目標に50代から努力すべきだと思う。

慈恵医大患者支援医療連携センター長 常喜達裕(じょうき・たつひろ)
東京慈恵会医科大卒、同大学院修了。同大脳神経外科准教授。ハーバード大脳神経外科客員研究員などを経て、脳腫瘍患者の外科治療から在宅医療まで切れ目ないネットワークづくりを目指す。2007年より同大患者支援・医療連携センター副センター長、12年より現職。
(構成=吉田茂人 撮影=奥谷 宏)
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