――リンダさんご自身は、お子さんたちに働き続けることをどのように説明していたのでしょうか?
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6歳未満の子どものいる夫の家事・育児時間(1週間平均)を見ると、子どものいる日本人男性の家事時間は1週間に1時間。アメリカ、ドイツ、スウェーデンといった欧米諸国の約1/3しか負担していないことがわかる。

子どもが小さい頃から、働いているところをよく見せました。小さいときは職場に連れていき、私の同僚に会わせることもありました。働いている姿を見せることはとても大事だと思います。どんな仕事をしているかもよく話しました。

ビジネスに興味を持ち始めたときには、気に入りそうな本を与えたりエコノミスト紙やフィナンシャルタイムズ紙の記事について話し合ったりしました。働く母親だからできることも多くあります。子どもたちは、私が常に子どもの後を追って監視するような母親じゃなくて良かったと言っています。自分たちに多少の主体性や独立心を与えてくれる母親で良かったと。

だから、女性は胸を張って働き続けるべきだし、そのことを家族に理解してもらうことを諦めてはいけません。

――リンダさんには、ロールモデルとなる女性はいたのでしょうか?

私は、ロンドン・ビジネススクールで初めての女性教授でした。当時は、イギリスでも少し前の日本と同じような状況で、管理職の女性は皆無に等しかった。女性のロールモデルもなく、男性社会の中で手探りで進んできたのです。ですから、私自身が女性のキャリアパスを開拓してきたパイオニア(開拓者)世代の一人です。

しかし、非常に少なかったですが、同じように男性社会に入って少しずつ変えていく“常識を覆す女性”が何人かいたことも励みになりました。誰か一人がということではなく、そうしたさまざまな場面で見聞きする女性たちが、私にとってのロールモデルだったんですね。

でも、今の欧米の若い女性たちも、また新たな時代のパイオニアなのです。日本もこれから変われるはずです。時代によってさまざまな困難が立ちはだかりますが、みんなそれぞれの時代のパイオニアなのです。日本の女性たちは、自分たちがパイオニア世代だと気づく必要があります。

今こそ変えるときが来たのです。日本の女性たちは、これまでの働きにくかった状況を突破する準備がすでにできているように感じますよ。

Lynda Gratton(リンダ・グラットン)
世界でも最高位とされるロンドン・ビジネススクールの教授を務めるリンダ・グラットンさんは、人材論、経営論の世界的権威で、「経営学界のアカデミー賞」とも呼ばれる「Thinkers50ランキング」のトップ14に選ばれています。フィナンシャルタイムズ紙では「今後10年で未来に最もインパクトを与えるビジネス理論家」ともいわれました。これまで7冊の本を執筆していますが、日本では初となる著書『ワーク・シフト』を2012年に出版。「今と同じ働き方のままでは、近い未来に孤独で貧困な人生が待ち受けている」という衝撃の研究結果は話題となり、13年度ビジネス書大賞を受賞しました。14年8月に、日本で2冊目となる『未来企業』を出版。企業は個人と社会のレジリエンスを高めるために何ができるかを論じています。

写真=貝塚純一