女性管理職登用の間口は狭くなる
貢献度に応じた報酬を出したいというのであれば、個々の人事考課でもできるはずです。なぜ、あらかじめ「踏み絵」を設けて区分けをする必要があるのか。残業・転勤ができなくても、貢献度の高い仕事をしている限定正社員にとっては理不尽な思いが募る制度だと思います。
限定正社員が、正規雇用を希望する非正規雇用者の受け皿になるというのも、よくわかりません。正規雇用を希望する人には、普通に正規雇用への道が開かれる政策のほうが喜ばれると思います。
さらに、安倍さんが強調する女性の管理職登用との関係。管理職は(1)から選ばれると考えられますが、家庭責任を免除された一部の女性のみが対象になるのでは間口が狭すぎます。
一方、男性が(2)を選ぶのは勇気が必要で、男性の家事・子育て分担を抑制するファクターにもなってしまいそうです。
疑問は果てしなく浮かびます。考案中の「雇用ルール」がこれらの課題を解消するものであることを願っています。
家庭を顧みず働ける人だけが認められる社会
国は両立支援やワーク・ライフ・バランスを推進してきたはずですが、長時間残業も転勤もいとわない働き方を優遇するしくみの導入は、これらの施策と矛盾するのではないでしょうか。
子育て社員が長時間労働の職場で肩身の狭い思いをし、定時まで2倍の密度で働いても評価されず、結局残業もせざるをえなくなって家庭の時間を削り、帰宅後も子育てと家事にフル回転し、もっと帰りが遅い夫の職場を恨み、自分自身も疲れ果ててしまう。そんな生活では女性も男性も輝けないし、安心して子育てができる環境とはほど遠いものになります。
一家にひとりの大黒柱が手厚い生活給をもらいながら家族を養っていた時代は終わりました。当時と同じ発想で会社にすべてを捧げるような働き方を求められても、無理があります。
冒頭のコメントからいただくと、キーワードはむしろ「仕事に疲れているおっさんも輝ける社会」なのかもしれません。
女性が輝くどころか、男女ともに疲弊し、子どもが育てられないような社会では、産業競争力を高めるどころではなくなってしまいます。国民の幸福感がどんどん小さくなってしまうことのないような施策の実現をお願いしたいと思います。
1956年、兵庫県生まれ。早稲田大学第一文学部卒。出版社勤務を経てフリーランスライターに。93年より「保育園を考える親の会」代表(http://www.eqg.org/oyanokai/)。出版社勤務当時は自身も2人の子どもを保育園などに預けて働く。現在は、国や自治体の保育関係の委員、大学講師も務める。著書に『共働き子育て入門』(集英社新書)、『働くママ&パパの子育て110の知恵』(保育園を考える親の会編、医学通信社)ほか多数。