理不尽すぎる状況をどう突破するか

以前この連載でも取り上げたG・ガルシア=マルケスの『百年の孤独』が文庫化され、ネット書店で売り切れが続出するほどの大ヒットとなっています。この機会に初めてラテンアメリカ文学に触れ、他の作品も読んでみたいと思った方は多いのではないでしょうか。そこで今回は、ガルシア=マルケスと並ぶラテンアメリカ文学の代表的作家であるマリオ・バルガス=リョサの『楽園への道』を紹介します。

ペルー生まれのリョサは、この小説で自分の祖国にルーツを持つ2人の実在する人物を描いています。一人は後期印象派の画家として有名なポール・ゴーギャン。もう一人は19世紀フランスの女性活動家フローラ・トリスタンです。実はフローラはゴーギャンの祖母であり、彼女はペルー出身の父親とフランス人の母親との間に生まれたため、主役2人はどちらもペルーの血を引いていることになります。

本作の奇数章ではフローラ、偶数章ではゴーギャンの物語が交互に描かれます。両方とも面白いのですが、今回はフローラに焦点を当てて読んでみたいと思います。

彼女の名前を知らない人も多いかもしれませんが、フローラはマルクスやエンゲルスに先駆けて労働者の団結を呼びかけ、労働組合の概念を世の中に広めた人物です。本作でも彼女がその構想を語る場面があります。

「労働組合は革命を回避するために生まれるもので、血を一滴も流すことなく、正義が勝利するのです」

暴力に訴えるのではなく、労働者が団結することによって、弱い立場に置かれた人たちの地位向上を目指す。これがフローラの思想でした。『共産党宣言』よりも前に、このような主張を唱えた女性がいたことに改めて驚きを覚えます。

彼女を突き動かす原動力になったのは、憤りでした。フローラは貧しい幼少期を経て若くして工場で働き始め、その工場の経営者と結婚します。しかし、男の性的欲求に応え、男の子どもを産むという隷属的れいぞくてきな結婚生活に憤慨します。

「女は男の奴隷である」という当時の時代精神は、結婚のみならず労働においても浸透していました。女性にまで働く権利を拡大すると失業が広がるとして、男女の激しい賃金格差があったのです。

男に支配され続けるのが女の一生だとするならば、そんな現状を変えなければいけないと、フローラは怒りを募らせます。

その思いが爆発的なエネルギーとなり、夫のもとを飛び出して女性解放運動に身を投じたフローラは、やがて労働者階級は男女問わず虐げられた存在であるとの考えに至ります。

(構成=塚田有香 撮影=川しまゆうこ イラストレーション=米山夏子)

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