「売り込み」に左右される
会社の健康診断の結果票に「異常なし」とあれば、ひとまず安心するでしょう。しかし、その「異常なし」は、がんがないことを意味しません。その日に調べた項目には異常が見つからなかった、というだけのことです。結果票に並ぶ項目の多くは、そもそも、がんを探すための検査ではありません。会社の健診は、がんについて何かを保証してくれる仕組みにはなっていないのです。
そう言える理由は2つあります。1つは、会社の定期健診を受けていても、それだけでは必要ながん検診を受けたことにならないこと。もう1つは、がん検診を受けていても、がんを見つけられない場合があることです。
会社の定期健診は、労働安全衛生法にもとづく事業者の義務です。ただしその法定項目は、働き続けられる状態かを確かめるためのもので、がんを見つけることを目的とした検査は入っていません。
会社でがん検診を受けられる場合もありますが、それは定期健診とは別のものです。健康保険組合などの保険者や会社が、福利厚生として自主的に行っていて、法律上の実施義務はありません。厚生労働省は職域(企業)向けのマニュアルで国の指針に沿った実施を求めていますが、どこまで沿うかは、それぞれに委ねられています。
そのため、中身は会社ごとに違います。同じ乳がん検診でも、マンモグラフィの会社もあれば、超音波検査の会社もある。
メニューを決めているのは、医療職ではないことが少なくありません。保険者には医療職がほとんどおらず、健康管理室や事務の担当者が検診を企画しているというのが実態です。
そこへ検診を提供する事業者が売り込みに来る。このセットならいくらでできますよ、と。提示された中からメリットを見て決めることになります。医療職ではない人であれば、善意も働き、単純に詳しい検査のほうがよいだろう、という方向になりがちです。便潜血検査の代わりに大腸内視鏡検査を、という具合です。福利厚生の手厚い大きな企業ほど、その傾向があります。その結果、国が推奨する内容とは異なり、がん死亡率減少という利益が確かめられていない検査を受けていることもあるのです。
なお、定期健診の胸部エックス線検査が、肺がん検診を兼ねている場合もあります。ただ、肺がん検診として行うには、画像の読み方や精度の管理に決まった手順があり、すべての健診がそれを満たしているとは限りません。
では、がん検診を受けていれば安心かというと、そうとも限りません。どの検査にも、がんを見落とす可能性があります。そして「要精密検査」と判定されても、精密検査を受けなければ、がんは見つかりません。
検診を受けて、要精密検査になっても病院へ行かない。それでは、検診を受けていないのと同じです。
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