競合とは真逆の戦略 「選択と集中」はしない
皆さんは、空港で手荷物を預ける際、スタッフのいるカウンターに並ばずに自動手荷物預け機を使ったことはあるでしょうか? 「セルフ手荷物チェックインシステム」と呼ばれるこの仕組みは、世界各国の空港で設置が進み、日本では2020年から日本航空(JAL)様が国内線で導入。今では長い行列に並ぶことなく、繁忙期でも5分程度で手続きが完了します。
このシステムを提供しているのが、生産や物流の現場でモノを動かす「マテリアルハンドリング(マテハン)」の世界トップクラスのメーカーであるダイフクです。ダイフクはマテハン市場において、15年から9年連続で売上高世界一を達成。25年12月通期の売上高も6607億円と過去最高を更新し、世界を代表する企業の1社です。
当社は1937年の創業以来、「モノを効率的に保管、搬送、仕分け・ピッキングする」ことを追求してきました。59年、トヨタ自動車様が日本初の乗用車専門工場として新設した元町工場に、車体を運ぶコンベヤシステムを納入しました。それを契機に、自動化技術への取り組みを本格化させ、60年代には日本初の無人搬送車(AGV)や自動倉庫を開発。その後も多様なニーズに応え、幅広い産業分野で最先端のシステムを提供しています。
現在は一般製造業・流通業向けの「イントラロジスティクス」、半導体生産ライン向けの「クリーンルーム」、自動車生産ライン向けの「オートモーティブ」、空港向けの「エアポート」の4つのコア事業を軸に展開しています。皆さんがスーパーやECサイトで購入する食品や日用品も、街中を走る自動車も、半導体が組み込まれたスマホやパソコンなどの電子機器も、「だいたいのモノ」が製造や流通過程で当社のシステムを経由している。そう聞いたら驚かれるでしょうか。実はマテハンの世界で、当社のように幅広い事業を多角的に手がける企業は珍しい存在です。競合は得意分野に特化した会社が多く、領域を絞る戦略をとっています。
では、なぜダイフクは「選択と集中」をしなかったのか。それは「マテハン」という分野を1つの事業と捉えているからです。確かにダイフクは自動車工場向けシステムも作れば、物流センター向けシステムも作るし、空港向けシステムも作ります。しかし納める場所は違っても、どれも「モノを効率的に保管、搬送、仕分け・ピッキングするマテハンシステム」であることに変わりはありません。それを「製造業だけ」「配送センターだけ」に絞る理由はない。これが我々の考え方です。そもそも当社がマテハンを手がけてきたのは、「人々を重労働や単純反復作業から解放し、人間にしかできない仕事に従事できる環境を提供したい」との思いがあるからです。人手不足が深刻化し、自動化ニーズが一層高まる中、我々の技術が貢献できる領域があるならお役に立ちたい。その精神はダイフクに脈々と受け継がれています。
病院で使っていた技術を半導体工場へ横展開
それに、事業領域を限定しないからこその利点もあります。ある事業で培った技術を他事業に横展開し、シナジーを生みながら成長できることです。
その代表例が、半導体ウエハーの搬送システムです。クリーンルームの天井に張り巡らせたレールに沿って、ウエハーを格納したビークル(台車)が走る仕組みで、ダイフクが70年代に病院内でカルテを運ぶために納入した天井搬送技術を転用しています。天井なら障害物がなく、大規模化が進む半導体工場内を高速かつ自由なルートで動き回れる。それに気づいた当社の技術者が、いち早く半導体分野への横展開に着手しました。またビークルへの給電は、93年に自動車工場向けに開発した世界初の非接触給電式モノレール搬送システムの技術を採用しています。移動体に触れずに電力を供給できるため、摩擦による粉塵やスパークが発生せず、高度なクリーン環境が求められる半導体工場のニーズに応えられるからです。今や天井搬送システムは業界標準として世界中の半導体工場で採用され、近年の半導体需要の高まりによりクリーンルーム事業は当社の売上高の3割超を担うまでに拡大しました。
もしダイフクが「自動車分野しかやらない」などとこだわっていたら、この成長はなかったでしょう。私も社長時代は事業部間連携に力を入れ、CxO制度の導入などにより、組織を超えた協業や技術転用を促進しました。
当社のもう一つの独自性は、システムを構成する主要製品を自社で開発・生産し、コンサルティングから企画・設計・製造・工事・アフターサービスまで、一気通貫で提供していることです。我々が内製化にこだわるのは、マテハンは長く安定的に稼働してこそ、価値を生み出すものであり、品質や信頼性に責任を持つためです。
企業の生産ラインや物流が一時でも停止すれば、大きな損失が生じます。よって我々は納入後も10年、20年と保守を続け、万が一障害が起こったときは迅速に復旧し、顧客のニーズが変化すれば、システムの改良や刷新にも的確に対応する。これは自社生産だからできることです。長期にわたり責任を持ってサポートすることで、お客様の信頼を獲得し、新たな工場や物流拠点の建設計画が持ち上がると、ダイフクに声がかかって新規受注につながる好循環を生んでいます。
一度自社で作るのをやめてしまったら、その技術は失われ、二度と取り戻せません。内製化率の高さと一貫したサポート体制は、グローバル市場での競争力強化に不可欠な要素です。
一方で、顧客ごとに個別のシステムを自社生産すれば、コストが増大して利益を圧迫しやすくなります。だからこそ我々は、設備や機械の標準化を推進し、どの現場でも共通する機能や仕様は統一化して、コストダウンに取り組んできました。
営業なのに図面も描ける 細やかな顧客対応を実現
また、案件数が多いイントラロジスティクス事業では、営業担当が設計を学び、小規模の案件であれば自ら図面製作や原価計算も行います。これも業務効率化と生産性向上を図ることが目的です。社内には設計担当のエンジニアリング部隊もいますが、営業が客先から要望をいちいち持ち帰り、エンジニアを連れて何度も再訪すれば、人手も時間もかかります。営業一人でお客様とやりとりしながら、その場でレイアウトや原価の提案ができれば、より細やかで柔軟な顧客対応が可能になるうえに、コスト削減にもつながります。
私が社長に就任する前から売上高は世界一でしたが、営業利益率は7〜8%にとどまっていました。そこで利益体質に転換すべく、海外子会社を含む社内の意識改革に努め、2025年度には営業利益率が15%に向上しました。
長年培った自動化の技術と知見を武器に、新しい事業も育っています。冒頭で紹介したエアポート事業は、07年のM&Aをきっかけに参入した比較的新しい領域です。当時の空港は、大量の手荷物を運ぶのも仕分けるのもベルトコンベヤなどの単純なものが中心で、モノを動かす仕組みは何十年も変わっていませんでした。そこで当社が参入するからには、全く新しいシステムを作ろうと考え、自動手荷物預け機や、搬送中の手荷物の位置情報をリアルタイムで把握するシステム、手荷物の一時保管と出庫を行う自動倉庫などを組み合わせ、従来の空港にはない最先端のソリューションを提供できるようになりました。空港運営の省人化やロストバゲージの低減に貢献しています。今後は農業や環境分野でも、当社の自動化技術を役立てたいと考えています。
また、30年までに「物流センターの完全無人化」を目指し、ヒューマノイドと融合した次世代マテハンシステムの研究も進めています。同じく30年の経営目標として、営業利益率15%を維持したまま、連結売上高1兆円の達成を掲げています。
今年1月には新たな成長に向けて経営体制を刷新し、豊富な海外経験と半導体の知見を持つ寺井友章社長に経営を託しました。次世代リーダーのもと、さらなる飛躍を目指します。
※本稿は、雑誌『プレジデント』(2026年11月13日号)の一部を再編集したものです。
検索時にプレジデントオンラインに関連する記事が表示されます



