本やネットに頼らずスパイスカレーをつくる理由

フライパンに油を熱し、カルダモン、クミン、クローブの香りを立たせたら、ニンニク、ショウガ、タマネギを加えます。土曜日の午前、ビル・エヴァンスのピアノジャズを聴きながら、のんびりとタマネギがあめ色になるまで炒めます。ひき肉、トマト、ターメリック、チリパウダー、コリアンダー、ガラムマサラを加え、最後にあく抜きしたナスを加えて弱火で煮込みます。

午前11時、ターメリックライスが炊けました。3時間かけてつくったキーマカレーは少し煮込みの時間が長かったのか、味が少々まろやかになりすぎました。来週はもう少し尖った風味が際立つように、火入れの時間を調整しようと思います。

毎週末にスパイスカレーをつくるようになったのは、2020年4月。コロナ禍で外出できず、気持ちがふさぎがちになっていたとき、「せっかく家に居るのだから、何かに没頭して気分転換しよう」と思ったのがきっかけです。ガンプラ製作などいろいろな趣味的世界に入り込んでみた中で、カレーの奥深さにすっかり魅了されました。

スパイスのかけ合わせはもちろん、具材とのバランスや、その日の自分の体調によっても感じる味が変わります。カレーのレシピに「正解」はありません。私がカレーに関して本やネットを見ないのは、遠回りでも自分の味覚を頼りに一歩一歩、自己ベストを更新していきたいからです。

食後はコーヒー。今日はインドネシア産「オナンガンジャン」のフレンチローストです。メジャーな南米をはずし、アジアやアフリカの珍しい産地の豆を深煎りしてもらうのが、コーヒーへのこだわりです。

豆は名古屋市にあるパンダコーヒーロースターズで、いつも200グラムずつ買ってきます。ジャパンコーヒーロースティングチャンピオンシップ4位の焙煎士、倉橋賢史氏の店で、数年前にふと立ち寄って味に感動してから通っています。意気投合してあれこれ話しているうちに、なんとお互いが同級生だったことに気づいたのです。以来、定期的に買いに行くのですが、コーヒーもまたマニアックな世界でドリップの仕方一つで、香りの引き立ち具合がまるで違うのです。こうした趣味での試行錯誤は、私自身の思考を広げ、商品企画の着想を得る重要な源泉になっています。

たとえば、こだわりが高じてハンドドリップの厳しい温度管理や抽出速度、抽出理論を研究した感動のコーヒーメーカー「ドリップマイスター」を商品化したこともあります。

大手メーカーに差をつける商品開発の考え方

カレーでも実体験から生まれた商品があります。レトルトカレーの世界にハマったときに「手軽さが魅力なのに、お湯を沸かしたりラップをかけたりで、食べられるまでに10分近くもかかるのはどうなんだろう」と感じ、お湯なしでパウチをそのまま温められるレトルト調理器の「レトルト亭」を企画、11カ月で商品化に漕ぎつけました。クラウドファンディングで開発資金を募ったところ、1週間で2255万円を集める大ヒット商品になりました。

我々は大手と同じ商品を、ただ安くつくるだけのメーカーにはなりたくありません。卓越したデザイン、ほんの少し遊び心を加えたネーミング、確かな技術の裏付け、そして思いのあふれるユニークな商品を生み出していきたいのです。

私は長らくクリエイティブ・ディレクターのポジションにありましたが、いつも商品企画からデザイン、ネーミングまですべて自分で手がけるタイプでした。社長となって陣頭指揮を執る立場になりましたが、変わらず新企画のアイデアは出しています。ただし立場上“やりたい放題”にならないよう「自分はこういうロジックで考えているよ」と皆に丁寧に伝え、異論を出してもらえるように気をつけています。

(構成=渡辺一朗 撮影=宇佐美雅浩)

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