熊本・米国にも進出する台湾の戦略的価値

TSMCの存在感が増す中、各国は自国へのファウンドリ誘致(工場誘致)に躍起になっています。その象徴がTSMCのグローバル展開です。

2022年、TSMCは日本の熊本にソニーグループ、デンソーなどとの合弁会社「JASM」を設立し、国内初のTSMC工場の建設に着手しました。

前述したとおり、TSMC熊本工場(=「JASM」)では、2024年から旧世代(12~28nm)のロジック半導体の受託生産を順次開始しています。主な用途はソニーのイメージセンサー用半導体チップや、トヨタグループなどの自動車向け半導体チップと見られています。

TSMC
(写真=4300streetcar/CC-BY-4.0/Wikimedia Commons)

さらに2025年には、第2工場の建設も開始され、将来的に製造能力を倍増させる計画です。日本政府は巨額の補助金を投じてTSMCを誘致しており、半導体の国産回帰・供給網強化の切り札として期待されています。

TSMCは米国工場にも力を入れており、アリゾナ州では3つの先端半導体工場を建設する大型プロジェクトを進めています。第1工場は4/5ナノ世代で2025年に稼働、第2工場は3ナノ世代で2028年の立ち上げを計画しています。さらに2030年までには第3工場を稼働させる計画で、将来世代の先端ロジック半導体の製造拠点として期待されています。これらは米国政府の「CHIPS法」による巨額支援の対象であり、アップルをはじめとする米大手企業向けの重要なサプライチェーン基盤となります。

中国による侵攻の抑止力が揺らぎかねない

一方で、TSMCは中国本土にも生産拠点を持ち、2018年に南京工場(16ナノ世代)を稼働させています。これは先端ノード(先端技術の生産工場)ではないものの、中国国内の需要を賄う成熟プロセスの生産拠点として機能しており、TSMCは先端・成熟プロセスの双方でグローバル生産体制を強化しています。

習近平
(写真=4300streetcar/CC-BY-4.0/Wikimedia Commons)

このようにTSMCが生産拠点を台湾外に広げる動きは、半導体地政学の観点でも注目されています。

台湾はこれまで「シリコンの盾」とも称されてきました。世界の最先端半導体チップの9割を製造する台湾の戦略的価値が、中国による侵攻の抑止力になっている、という考え方です。

万が一、台湾情勢が不安定化すれば、世界中で半導体の供給が滞り、経済的打撃は計り知れません。そのため各国は台湾有事を回避すべく動くだろうという仮説、これがシリコンの盾の概念です。

しかしながら、TSMCが生産能力の一部を米国や日本へ分散し始めたことで、「台湾に世界が依存する構図」が薄れ、「盾」が揺らぎかねないとの指摘もあります。

一方で、サプライチェーン強化の観点では、TSMCの海外分散はリスク低減につながるとの見方もできます。

TSMC自身は「海外展開は顧客のニーズと各国支援策を踏まえて決定している」としつつ、台湾拠点の競争力維持にも自信を示しています。グローバル展開が進む中でも、依然として台湾が半導体生産の中枢(特に最先端プロセス製造の中心)であることに変わりはないというスタンスを維持しています。