トランプ大統領と習近平国家主席の接近は、日本に何をもたらすのか。元外交官の佐藤陽一郎さんは「かつて中国海軍は、米国側にハワイを境とする太平洋の分割管理を打診したとされる。米中が互いの勢力圏を認め合えば、日米同盟の前提が揺らぎかねない」という。米中の取引の先にある、日本が警戒すべきシナリオを解説する――。
2026年5月14日、習近平総書記によるドナルド・トランプ大統領の歓迎式典
2026年5月14日、習近平総書記によるドナルド・トランプ大統領の歓迎式典(写真=The White House/PD US Government/Wikimedia Commons

経済的成果が乏しくても、日本が見過ごせない米中会談

米国のトランプ大統領は現地時間9月23日、ワシントン郊外のアンドルーズ空軍基地で中国の習近平国家主席を国賓として迎える。米側は晩餐会を用意し、中国側は企業代表団の同行を調整しているとされる。

24日に予定されている米中首脳会談では、貿易戦争の休戦延長、対イラン制裁などの懸案が議論される。急速に発展する人工知能についても立場の違いが目立つ。

11月に中間選挙を控えるトランプ大統領は、習近平主席が最重視する台湾問題をちらつかせながらディールを狙っている――筆者はそう見ている。

しかし、投資家はあまり期待を寄せていないようだ。香港英字紙のサウスチャイナ・モーニングポストによれば、中国本土の投資家の38%が米中関係の追加的な進展を予想したのに対し、海外投資家では26%にとどまった。

今年5月の北京会談と同じく、今回の会談は象徴的であり経済的成果はあまりないだろうと予想する。

しかし、安全保障の観点から見ると、昨年から進みつつある米中の戦略関係の変化こそ見逃してはならないと考える。

まずは会談の戦略的意味を考えるために、中国、米国の国家戦略を振り返りたい。

中国は、2012年に発足した習近平政権は2049年の建国100周年頃までに「中華民族の偉大な復興」を実現するという目標を掲げる。背景には19世紀のアヘン戦争以降、西欧列強や日本により半植民地化されたという被害者意識がある。

だからこそ中国は、「かつて失った領土領海の原状回復」を掲げて軍事力を強化し、南シナ海などへの進出を強めている。

中国海軍が持ちかけた「太平洋の分割管理」

2007年頃から、中国は太平洋を分割することを米側に提案してきた。報道によると、アメリカ太平洋軍の司令官が2007年の訪中時に中国海軍幹部から「ハワイを基点に、ハワイ以東を米国が、以西を中国が管理してはどうか」と打診されたと証言したという。

さらに習主席自身が歴代の米国大統領に同様の提案をした。国家主席に就任した直後の2013年、米カリフォルニア州を訪れ、オバマ大統領との会談で以下を述べた。

「広大な太平洋には、中国とアメリカという両大国を受け入れる十分な空間がある」「思考を新たにし、積極的に行動し、新型の大国関係の構築を共同で推し進めなければならない」

つまり、これらを総合すると中国側は、①「米中は新型の大国関係を構築すべき」、そして②「ハワイを境に東太平洋を米国が、西太平洋を中国が統治すべき」という考えを示したと筆者は解釈している。

いわゆる①「G2(Group of Two)(米中二極体制)」と、②「太平洋の東西二分割論」である。

もちろん、①と②は同義ではないが表裏一体だろう。①は政治的な関係を議論し、②は軍事的勢力圏を念頭に置いている。

G2を認めれば、自ずと太平洋の東西分割の議論が出て来る。そうすれば、中国は台湾統一がしやすくなり、太平洋の西半分を収めることができる。それが習近平の狙いだろう、と筆者は想像する。