ドロップアウトした経緯

父親はメーカー勤務時代、仕事が忙しかったこともあって、子どもたちのことは妻任せ。長男が高校に行けなくなった当時は、妻からの相談に自分なりに対応してきたつもりだったが、具体的な行動には移してこなかった。そして、解決策が見つからないまま、時間だけが過ぎてしまったと振り返る。

妻は長男が高校生になった頃に、パートタイムの仕事を始めた。子どもたちの教育資金を少しでも自分の収入で補いたいと考えたからである。パートは午前9時から、13時ころまで。13時30分くらいには帰宅できるのだが、帰宅すると、長男が家にいる機会が増えた。

「学校はどうしたの?」と尋ねると、「授業が早く終わったんだよ」と言い返されたりもしたが、実際には朝、家は出るものの学校には行かずに公園などで時間をつぶし、母親が出かけたあとに自宅に戻ってきたようだった。そんな状態がひと月くらい続いたのち、登校するふりすらしなくなってしまった。

制服を着た高校生
写真=iStock.com/taka4332
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このころから、葛西家には重苦しい雰囲気が漂うことになる。妻に促される形で、葛西さんも「学校に行けないなら、塾にでも行ったらどうか?」とか、「学校に行けない子どもたちが集まれる場所があるみたいだから、行ってみないか?」などと声掛けをしたりもした。だが、長男が反応することはなく、そのまま時間が経過してしまった。

それでも20歳を過ぎたころ、長男から高卒認定試験を受けたいという申し出があった。受けたくなったきっかけはわからないが、長男が意欲を見せたことを喜び、夫婦で応援をした。そして、無事に高卒認定試験には合格するのだが、「今さら大学に行ったとしても、同級生は何歳も下の子ばかりで、話なんか合わないよ」と言われ、大学受験は実現しなかった。

父親はNPO立ち上げも生活困窮状態に

バイトすらできずに、部屋にいる時間の長い長男の将来はもちろん心配だが、次男の収入も自分のお小遣いを賄える程度。子どもたちが20代のうちは、「そのうち働いてくれるんじゃないか」と軽く考えていたこともあったが、長男が30代を迎えるころから「このままでは、本当にまずいのではないか」という焦りが生じてきた。

そこで、葛西さん(当時56歳)は思い切った行動に出た。

30年近く勤めた会社を退職して、働けない子どもたちをサポートするためのNPO法人を立ち上げたのである。当事者家族である自分だからこそ、できる支援があるのではないかと考え、NPO法人の設立を実行に移したわけだ。

【図表1】NPO代表者の年代
出典=内閣府

趣旨に賛同して、協力してくれるメンバーも見つかり、NPO法人は無事に設立することができた。会社員時代と比べると、収入は3分の1くらい(月15万~20万円)に下がったため、妻のパート収入(月12万円)がなければ、家計は成り立たないが、寄付や助成金を利用して、居場所を確保したり、講演会を開いたり、定期的な講座を開催するなど、少しずつ活動は軌道に乗ってきたところである。

【資産状況】
父親 貯蓄 600万円
母親 貯蓄 800万円
長男 貯蓄 20万円
次男 貯蓄 120万円

【家計収支】
収入
父親の収入 15万~20万円
母親のパート収入 12万円
計 27万~32万円

支出
食費 5万8000円
水道光熱費 3万円
固定資産税(月割り) 1万円
日用品 8000円
交際費 8000円
被服費 5000円
有料放送代 4000円
交通費 8000円
医療費 1万2000円
クレジットカードの支払い 8万~10万円
父親こづかい 2万円
母親こづかい 1万円
長男こづかい 1万円
計 26万3000~28万3000円

実は筆者は、このNPO法人から講演の依頼を受けたことで、今回の葛西さんと知り合った。その接点の中で、葛西家の事情も少しずつ把握できるようになってきた。

葛西家の現在の貯蓄は、父親が600万円、母親が800万円の合計1400万円である。葛西さんが退職した時点では、退職金を含めて2500万円ほど保有していたが、NPO法人を設立してからは、同法人運営への持ち出しなどもかさみ、家計が赤字になることが多い。気づけば世帯の貯蓄は1000万円以上も減っていた。