「一日なさざれば、一日食らわず」。禅では仕事も修行の一つだ。「世界が尊敬する日本人100人」に選ばれた高僧が、あなたの日頃の迷いに対して、考え方の筋道をわかりやすく説く。
どんな仕事にも、見落としてはならない大切なポイントがあります。私は「ヘソ」と呼んでいますが、経験を積むほど素早くヘソをつかめるようになります。
信頼されない原因は、簡単に言えば、お客さんの立場になりきれていないから。相手の気持ちになることがヘソです。
庭園をデザインする際、私はその庭に来られる方の気持ちになって考えていきます。例えば、とても景色のいい敷地に庭をつくるとしましょう。建物や庭をめぐった最後にパッと眺望が開け、素晴らしい景色が広がるような場所です。
その景色はいわばメーンディッシュです。最も印象を強くするために、その直前の空間を徹底的に絞り込みます。日本的な空間づくりの基本は開閉を繰り返すこと。そうすることで、見る人に美しい景色を予感させるのです。
庭を見終わった最後に、美しかったと満足してほしい。庭園デザインのヘソはここにあります。そこに答えを出すのが、デザイナーとしての私の使命です。
同じことは営業の仕事でもいえるでしょう。最終的にお客さんに満足してもらうことがヘソなのです。
例えば製品を提案するため、お客さんから細かくニーズを聞いたとします。自社の製品はお客さんの要望を8割は満たせるけど、2割は満たせない。ところが、ライバル会社の製品なら、お客さんの要望をほぼすべて満たせることがわかっています。あなたなら、お客さんに何と説明するでしょうか。
自社製品がニーズをすべて満たすと偽って販売すれば、あとでお客さんからクレームが入ることは間違いありません。ニーズの8割だけを満たすと伝えても、それだけではお客さんの立場で考えたとは言えません。ライバル会社にすべて満たす製品があるという情報こそが、お客さんにとっては最も有益なのです。真実を伝えれば感謝され、今回は買ってもらえないとしても、別の機会に注文を受けたり、口コミで新しいお客さんを連れてきてくれるはずです。
1953年、神奈川県生まれ。庭園デザイナーとしても活躍。代表作に水戸・祇園寺庭園、東京・カナダ大使館など。多摩美術大学教授、ブリティッシュ・コロンビア大学特別教授も務める。『禅と禅芸術としての庭』『禅シンプル発想術』など著書多数。