「一日なさざれば、一日食らわず」。禅では仕事も修行の一つだ。「世界が尊敬する日本人100人」に選ばれた高僧が、あなたの日頃の迷いに対して、考え方の筋道をわかりやすく説く。

まず、自分はどこまで仕事にエネルギーを注ぎ込んでいるかを振り返ってみてください。おそらく誠心誠意に取り組んでいたとは言えないはずです。大げさに言えば、仕事に命をかけていればミスは必ず減ります。

もちろん、そのような姿勢の問題とは別に、ミスを防ぐ仕組みも必要です。職場でお互いにチェックしあう、上司にチェックしてもらうなどの体制を築いていく方法です。

そして重要なことは、自分がミスを犯したときの対処です。ミスが発覚したらまず謝る。「ごめんなさい」でも「皆さん、ご迷惑をおかけしました」でもいいのですぐに頭を下げます。素直に謝るという行為は、人間関係を良好に保つだけでなく、自ら肝に銘じて同じ過ちを繰り返さない効果もあります。

ミスを指摘されても謝らない人は、深く反省する機会を失います。たび重なれば、屁理屈をこねて自分を正当化する癖がついてしまう。たとえその場は言い逃れできても、同じミスを犯せば完全に信用を失います。それよりは「ごめんなさい」と気持ちよく謝って、二度と同じ失敗を繰り返さない人のほうがはるかに信頼されるはずです。失敗そのものはマイナスですが、次の仕事に活かして成功を収めればプラスに転じるのです。

過去の失敗がトラウマとなり、新しい仕事に踏み出せない人がいます。しかし過去は過去、悔やんだところで何も変わるはずはないのですから、放っておけばいいのです。

失敗を恐れて、いまの能力でこなせる仕事をつづけても進歩がありません。能力以上の仕事に挑戦してこそ成長があるのです。難しい仕事にチャレンジすれば、一度や二度の失敗はあって当然です。

禅では「前後際断(ぜんごさいだん)」といって、過去は過去、現在は現在、未来は未来と区別し、それぞれが連続したものではないと考えます。過去のことはいまさら取り繕うことができません。もう終わったことだと断ち切り、いまなすべきことに集中するのです。

ミスを犯しても引きずってはいけません。目の前の仕事に必死に取り組むことが大切です。

曹洞宗徳雄山建功寺住職 枡野俊明
1953年、神奈川県生まれ。庭園デザイナーとしても活躍。代表作に水戸・祇園寺庭園、東京・カナダ大使館など。多摩美術大学教授、ブリティッシュ・コロンビア大学特別教授も務める。『禅と禅芸術としての庭』『禅シンプル発想術』など著書多数。
(構成=伊田欣司 撮影=若杉憲司)
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