細胞の中の「エネルギー工場」が止まる
なぜ血管は熱に弱いのでしょうか。熱中症になった際に起きる深刻な事象は、細胞内のエネルギー工場である「ミトコンドリア」へのダメージです。
通常、私たちの細胞はミトコンドリアがブドウ糖や脂肪酸などを燃焼させることで、活動に必要なエネルギー(ATP)を生み出しています。しかし、高温環境にさらされると、このミトコンドリアの働きが鈍くなってしまいます。
つまり「暑さでフラフラする」という現象は、単なる気分の問題ではありません。あなたの細胞の中で、エネルギー生産が物理的にストップしかけているという、緊急事態のサインなのです。
動脈と静脈はどちらが先にやられるのか?
では、熱中症で血管がダメージを受けるとき、動脈と静脈ではどちらが先にやられるのでしょうか。
私たちの研究では、細胞レベル(試験管内)で動脈内皮細胞と静脈内皮細胞を比較した結果、静脈内皮細胞のほうが熱に対して圧倒的に弱いことが確認されています。
動脈より静脈のほうが弱い理由は、その機能の違いにあります。静脈は、動脈によって全身へ送られた血液に細胞から二酸化炭素や老廃物などを回収し、心臓へ運ぶ役割を持ちますが、動脈に比べて血圧が低く、血液の流れも緩やかです。
一方、動脈は常に脈打ち、血圧調整のために収縮・拡張を繰り返しており、物理的なストレスに常にさらされています。自律神経の調節によって外からのさまざまなストレスに対応し続けているため、動脈の内皮細胞は熱などを含めたストレスに対し、ある程度強固に作られているのだと考えられます。
熱中症の予防や対策に求められるのは、環境整備や衣服の工夫だけでなく、人間の身体そのものへのアプローチです。外側からの対策と内側からの対策を組み合わせることで、より確実な熱中症予防が実現できるのです。
では、身体の内側から血管細胞を守るために、私たちは何を見つけ出したのか。次回、その「3つの成分」を紹介します。


