「無知な看病婦の為に祈りました」
後になって和はこのように証言しているのだが……祈られた方からすれば、大きなお世話だろう。医師たちの権威主義を嫌っていた和たちもまた、無知な者や不信心な者たちを見下している。そんなところがあった気がする。おそらく彼女らの独善は、看病婦たちも察知していたのだろう。看病婦たちには桜井女学校の委託生を嫌う者も多かった。
実習期間中、和はかなりストレスを溜め込んでいたようだ。それが、とある事をきっかけに爆発してしまう。乳がんの痛みに苦しむ患者から「一晩でいいから付き添ってほしい」と懇願され、見捨てることができず事務所に了解をとって看病した。しかし、翌日にそれを知った担当医師が大激怒。
「見習いのくせに余計なことをするな! 私の治療や看病婦の世話が行き届かないと言いたいのか?」
いきなり怒鳴りつけられた。自分が命じたことだけをやっていればいい、その他のことは考えず何もするなと言うのである。和も黙ってはいなかった。看病婦のことを雑用係としか思っていない医師の態度にも腹が立ち、負けん気に火がつく。
献身的すぎる和が起こした軋轢
「看病婦というのは病める人々の魂を癒すということが第一義であるはずです。言われていることをこなしているだけでは、仕事を全うすることはできません」
キッと睨んで反論する。男尊女卑と官僚主義にどっぷり浸かって生きてきた医師には、見習いの看病婦が自分に意見を言ってくるなんて想像もしてなかった。面食らって何も言えずその場は引き下がったけど、人前で恥をかかされた遺恨は残る。
直情径行の和は敵をつくりやすい。それを心配した雅からよく窘たしなめられるのだが、この性格は変えられない。訓練期間中には他にも何度か小さな軋轢を起こしていた。
大阪芸術大学卒業。近・現代史を中心に歴史エッセイやルポルタージュを手がける。著書に『ウソみたいだけど本当にあった歴史雑学』(彩図社)、『牧野富太郎~雑草という草はない~日本植物学の父』(角川文庫)などがある。
