読書とは一人で味わう行為

本当に身に沁みる読書というのは、誰にも邪魔されず一人でじっと読んで味わうことが本統ほんとうです。

たとえば、お茶を飲みながら読んだり、寝転んで読んだり……どんな格好で読んだって、それはいいのです。しかし、狭苦しいお仕着せの机と椅子に座らされて、隣に他人がいる所で読むというようなことは、結局、その他人の存在、またそういう場の空気が、真摯な読書の邪魔になって集中できないという心の癖が私にはありました。

リビングで本を読む高齢男性
写真=iStock.com/west
※写真はイメージです

それでも、たとえば神保町の古書店で本を買って、近所の喫茶店でちょっと読んでみるというようなことは時々やります。あまりに面白そうで、家まで帰るのが待ちきれないから、ちょっとそこらでひと休みしつつ読んでみて、「なるほどこれは面白い」と思ったら、直ちに本を閉じて家へ帰ります。

まことに、多くの方のご参考にはならないような意見ばかりで恐縮ですが、喫茶店で音楽が鳴っていたりするのも嫌です。私は読書しているときは一切の音が邪魔なので、音楽を聴きながらの読書などはついぞ考えたことがありません。喫茶店のBGM、近くの人の話し声、そういうささいな音でも耳に入ってくると、もうそこですっかり読書の楽しみが帳消しにされてしまいます。

私が読書をするときはだいたい自宅の書斎にこもっているので、外からの音は入ってきません。まだ大学生の頃などは、もちろん書斎などはありませんでしたが、幸いに自分専用の個室はあったので、その机に向って、黙って本を読む、いつもそういうスタイルでやってきました。

林 望(はやし・のぞむ)
作家・書誌学者

1949年、東京生まれ。作家。国文学者。慶應義塾大学大学院博士課程修了。ケンブリッジ大学客員教授、東京藝術大学助教授等を歴任。専門は日本書誌学、国文学。著書に『イギリスはおいしい』『節約の王道』『「時間」の作法』など多数。『謹訳 源氏物語』は源氏物語の完全現代語訳、全10巻既刊9巻。