読書の味わいとは何か。『書物を楽しむ あえて今、紙の本を読む理由』(朝日新書)を出した作家の林望さんは「自宅で、あるいは自室で、一人でする読書がいい」という――。

本は自腹で買って読め

本書『書物を楽しむ あえて今、紙の本を読む理由』の第1章でもちょっと書いたとおり、私はかねてより、「本は図書館で借りて読むな」「自分の本を読め」と言っています。

図書館の本を片っ端から借りてきては「自分は、月に何十冊読んだ」とか言って自慢する人がいますが、「あなたのその読書は、すべて借りものの知識ですよ」というふうに私は思うのです。

なぜなら、よほど深い感銘を受けた本の場合を除いて、人は読んだ本の内容を、時間とともに忘れていきます。しまいに、「さて、そんな本読んだことあったかなあ……」という不確実な状態になるのが普通です。

しかし、自分で買った本で読書した場合、その本は、毎日のように目に触れることになる。すると、たとえば「ああ、この本には、しかじかのことが書いてあったなぁ」と、過去の読書経験がリマインドされてくる。そのことが、大事なのです。

図書館で借りた本を読んだ場合には、その本を返すと、その瞬間に「読んだ内容」をも返却してしまう……というのが実相です。なにしろ当該の本が身近に置いてあるわけではないので、一日一日とその本の読書記憶は薄くなり、失われていって、しまいにそんな本を読んだことすら忘れてしまうかもしれません。

図書館の本棚の前で本を読む人
写真=iStock.com/Robert Way
※写真はイメージです

本の貸し借りはしないほうがいい

いやいや、そんなことはない、読んで感銘を受けた本だったら、図書館の本でもちゃんと記憶してるぞ、という人があるかもしれませんが、もしほんとうにあなたの人生に影響を与えるほどの感銘をもたらした本なのだとしたら、どうしてその本を座右にそなえて、随時また読み直しては感銘を新たにしようと思わないのでしょうか。

私だったら、そういう素晴らしい本は、衣食を節してでも自分のお金を出して買って座右に具え、毎日でも眺めていたいと思います。

それが本を愛する者の、真実の思いです。

読んで、「読んだぞ」と思って、そのことで満足し、すぐに本を図書館に返してしまって、自腹を切って買おうとも思わない程度のことであれば、ま、そんな読書はいずれ雲霞くもかすみと消えてゆきます。そういうものなんです。

そうした意味では、本の貸し借りもしないほうがいい。金の貸し借りと一緒で、本も、人に貸したらだいたいは返ってこないもの。

金を貸すときには「この人にやってしまうんだ」という覚悟で貸すのがよい、とよく言われますが、本の貸借もそれと同じです。貸した本は返ってこないと覚悟して貸す、そんなものです。

いや、ほんとに大切な本だったら、ぜったいに誰に乞われようとも、貸す気にはなれません。それがほんとうの思いです。なぜなら、そんな大切な人生の宝のような書物を、人にとられては人生の損失だからです。