だから大河ドラマには登場しない

その後、家臣の寝返りが相次ぎ、永禄8年(1565)8月には信長の攻勢を防ぐ最前線だった犬山城(愛知県犬山市)が落城。龍興は次第に追い詰められていった。

永禄10年(1567)には、家老だったいわゆる「西美濃三人衆」の稲葉良通、氏家直元、安藤守就がそろって信長に内応し、ついに稲葉山城は落城して、信長の手に渡った。龍興は越前(福井県北東部)の朝倉義景のもとに逃れたが、6年後に戦闘で討ちとられている。まだ数え26歳だった。

その間、「濃姫」がどのようにすごしていたのか、たしかなことはわからない。戦国女性の心中を現代人の感覚で安易に忖度するのもいかがなものかと思いつつも、相当に苦しく複雑であったことは、容易に想像される。そうだとすれば、信長がくつろいで本音を吐露する相手にはなりにくかっただろう。

信長の相手が妹の市でいいのかどうかは難しいところだが、「濃姫」が登場しないのは、それなりに理があるように思えるのである。

香原 斗志(かはら・とし)
歴史評論家、音楽評論家

神奈川県出身。早稲田大学教育学部社会科地理歴史専修卒業。日本中世史、近世史が中心だが守備範囲は広い。著書に『お城の値打ち』(新潮新書)、 『カラー版 東京で見つける江戸』(平凡社新書)。ヨーロッパの音楽、美術、建築にも精通し、オペラをはじめとするクラシック音楽の評論活動も行っている。関連する著書に『イタリア・オペラを疑え!』、『魅惑のオペラ歌手50 歌声のカタログ』(ともにアルテスパブリッシング)など。