世界シェア90%の安全弁専門メーカー
半導体業界以外にも、GNT企業は数多くある。
たとえば大阪府に本社を置く福井製作所は、世界でも珍しい安全弁専門メーカーだ。特にLNG(液化天然ガス)運搬船に設置されているLNGタンク用安全弁を得意としており、その分野では世界シェア90%を誇る。
今後、世界的に液化水素、液化アンモニア、液化CO2を運搬する需要が高まるため、さまざまな実験プロジェクトが世界中で実施されている。安全弁トップメーカーの福井製作所はこうしたプロジェクトへの参加を必ず要請される。プロジェクトを推進する企業や団体は安全弁トップメーカーの福井製作所の技術を必要としているのだ。こうした液体運搬に関する情報が福井製作所に集まってくるのは言うまでもない。
福井製作所はいずれ、液化水素・液化アンモニア・液化CO2タンク用安全弁でも世界シェアトップを占めることになるだろう。
半導体関連のGNT企業や福井製作所の例でわかるように、GNT企業だからこそGNT企業であり続けるのだ。
ニッチ史上で世界を制す3つのパターン
GNT企業が海外展開するパターンは3つある。
1つ目は日本国内のニッチ市場でトップとなったあとに、海外市場に進出して世界的に高いシェアを確保するというパターン。標準的なパターンだ。
総合ポンプメーカーの酉島製作所は1919年に設立され、戦後は国内の発電所向けなど大型ポンプの製造で成長した。1970年代に入ると中近東やアジアへの輸出に注力し事業を拡大。今では海水を真水にする海水淡水化プラントで使用されるポンプで世界シェアトップだ。
2つ目のパターンは、すぐれた技術やノウハウがあるにもかかわらず、日本国内で販売が困難なため海外に展開し、そこでの実績をもとにほかの国でも販売を伸ばすケース。
国内ではサプライチェーンが確立しているので、新規の企業がそこに参入するのは難しい。大手企業は実績のない中小企業がつくった製品を採用しないことが多い。自治体など官公庁は前例踏襲主義なので、大手民間企業よりもさらに新製品の購入に慎重だ。
それに比べると米国企業は品質重視であるため、すぐれた製品であれば実績に関係なく採用する傾向が強い。米国企業への納入実績をもとにほかの国へも販売し、日本には逆上陸というケースは少なくない。
ネジメーカーの竹中製作所は、1980年代にさびないネジを開発したものの、国内のゼネコン、プラント企業は購入しなかった。それまで竹中製作所と取引がなかったことと、同社が無名な中小企業だったことが理由だ。
しかし、米石油メジャーのエクソンが石油プラントでの採用を決めたことで、世界的に普及し、今では国内のゼネコン、プラント企業にも採用されている。
3つ目の海外展開のパターンは、最初から海外展開を目指すケースだ。国内のニッチ市場は小規模なので、収益の拡大に限界がある。そこで、最初から海外展開を目指すGNT企業もあるのだ。ニッチな分野であっても世界全体ならば充分な需要がある。
精密切削工具メーカーのOSGは、1968年に国内工具専業メーカーとしては初めて米国法人を設立した。当時、米国に顧客はいなかったが、世界へ販売するには米国進出しかないとして未知の米国市場に飛び込んだ。
