株式上場は経営者にとってゴールではなく出発点だ。上場からおよそ10年にわたり、企業価値を伸ばし続けた経営者は何に注力してきたか、そして今後の10年で何を目指すのか。目線の先を語ってもらうPRESIDENT Growth連載【トップに聞く「上場10年」の成長戦略】。今回のゲストは、6月にフリュー(2015年、東証一部上場=現在は東証プライム市場上場)の新社長に就任した榎本雅仁社長――。
「プリントシール」で圧倒的に強い
30代や40代には学生時代の思い出も残る「プリクラ」(※1)――。現在は「プリントシール」や「プリ」と呼ばれるが、今でも10代女性に大人気だ。同市場で圧倒的な存在感を示すのがフリューだ。2025年3月現在の市場シェアは約9割に達する(同社調べ)。
今年は元祖プリントシール機「プリント倶楽部」(セガ/アトラス)の誕生から30年の節目にあたり、設置されたプリ機は今も各地のアミューズメント施設で存在感を示す。 だが、市場規模は最盛期の約2割に縮小。近年は同社の売り上げの大黒柱も変わった。
その会社の社長に今年6月に就任したのが榎本雅仁社長だ。就任前まで戦略本部を統括していた榎本氏は、社業をどう舵取りしていくのか。
エンタメ×ものづくりが強み
「当社は1997年にオムロン株式会社の1部門からスタートし、2007年、MBO(マネジメントバイアウト)で独立しました。そうした経緯を持つ会社なので、競合との違いを一言でいうと『メーカー的なDNAを持つエンタメ企業』。エンタテインメント+ものづくりのバランス感覚が持ち味です」(榎本社長、以下特記のない発言は同氏による)
榎本氏は新卒でオムロンに入社後、プリントシールやエンタメ事業を手掛ける子会社(後に現在のフリュー)に転籍。その後、京都のスタートアップ企業に移った後、オムロン傘下から離れたフリューに入社した。いわば“出戻り”だが、黎明期のプリ事業で苦闘した経験も持つ。
「スタートアップ(ゼロ・サム社)に行って良かったことは、大企業ではあって当たり前のリソースが、まったくない状況だったこと。急に呼ばれて『明日から〇〇をやって』と言われることも多かったですね。最後は国内事業の責任者になりましたが、さまざまな案件を勉強し、走りながら考えて決断する日々で、社会人として鍛えられました」
1974年2月生まれ、京都府京都市出身。東京大学大学院修了。1999年4月、オムロン株式会社入社。2004年4月オムロンエンタテインメント入社。その後、ゼロ・サム社を経て2009年12月フリュー入社。2018年3月同社ピクトリンク事業部事業部長、2020年5月執行役員、2023年3月戦略本部本部長、2024年6月取締役戦略担当、2025年3月同経営戦略統括部統括部長を経て、2025年6月に代表取締役社長に就任。
フリューに入社して16年。複数事業の責任者を経て、現在の社業に感じることは何か。
「一言で言うと、いろんなことができるのに実現していない『もったいない会社』だと思います。もちろん私も役員でしたので責任の一端はありますが、社長になったのでそれを変えて、会社を上昇気流に乗せていきたいと思います」
事業の縦割りを一新、シナジー効果を打ち出す
フリューの事業は大きく3つに分かれる。2025年3月期の全社売り上げ(約443億円)の約57%を占めるのが「世界観ビジネス」(約253億円)でクレーンゲームの景品(プライズ)や海外向けの物販が好調だ。次いでプリントシールを含む「ガールズトレンドビジネス」(約148億円)が同33%、家庭用ゲームやアニメなどの「フリューニュービジネス」(約41億円)は10%弱だ(アニメ事業は現在2025年6月に設立したフリュー・ピクチャーズ株式会社にて展開)。
「各事業は、環境の変化に左右されながらも奮闘しています。ただ、これまでは縦割り意識が強く部門の壁もあり、好調な事業が他事業と連携することもしませんでした。もっとシナジーを出すようにすれば、強みが掛け算されて成果が出ると考えています」
榎本氏の社長就任にあたり、役員異動にも大きな動きがあった。これまで同社を支えた前社長と前専務が任期満了で退任したのだ。創業者の田坂吉朗氏(2023年に会長を退任)は会社に籍を置くが業務内容には関与しない。つまり新社長がやりやすい環境になった。
社長就任後の8月に開催された取締役会で決議された、取締役と執行役員の業務担当の変更(9月21日付)に同社の決意が感じられる。
「ガールズトレンド事業内のプリントシール機市場は市場が縮小してテコ入れ策が必要なので、世界観事業でキャラクタービジネスを伸ばし、人材をやる気にさせる手法にたけた本部長(西村仁志氏)に兼任してもらいました。私の独断ではなく、ボードメンバー6人で議論した結果です」
海外事業はスピード感を持って
新たな動きも出ている。経済紙の取材に対し、榎本氏は「これまで海外事業のノウハウに乏しかったが、今後はグローバル企業を目指す」と語った。その真意を聞いてみた。
「中国の映画館最大手のWANDA FILM(万達電影)からオファーがあり、同社の現地映画館のエンタメスペースにプリントシール機を設置することが決まりました。年内にはテストマーケティングも行います」
WANDA FILM(万達電影)は、映画の投資・製作・配給・上映などを行う現地の有力企業で、中国国内の映画館数は日本の数倍ある。
前述した部門間の壁を取り払い、社内の連携を進める中で受けた案件だった。
「当社は創業地である京都、現在の本社がある東京・渋谷、物流拠点を持つ愛知・一宮と3つの事業所があります。中国からオファーを受けた時は、月に1回、3拠点を1日で回り、経営の想いを全社員にプレゼンする全社発表の日でした。そこで、まず渋谷でオファー内容を説明し、次いで一宮、京都と移動して説明。リアルタイムで情報が動いていたのでチャットも駆使しながら情報収集し、全メンバーへ共有して社内の一体感を高めたのです」
ここまでスピード感を持って行ったのは、数年前の残念な思いからだ。
「アメリカ企業からラブコールがあり、先方の責任者が来日までして交渉のテーブルに着いたことがありました。でも結局、時期尚早として断ってしまったのです」
チャンスがあれば積極的に向き合うが、一方で中国は政治の動向、アメリカはトランプ関税などカントリーリスクもある。「そこは注視しながら取り組む」と榎本氏は話す。
自己採点は「20~30点」、株価は経営者の通信簿
同社の業績を見てみよう。2025年3月期決算は連結売上高「443億500万円」(前期比3.6%)、営業利益「22億3900万円」(同40.6%減)、経常利益「22億8000万円」(同38.9%減)と増収減益。2026年3月期決算は連結売上高「450億円」(同1.6%)、営業利益「30億円」(同34.0%)、経常利益「30億円」(同31.6%)を見込む。
新社長として、この数字をどう見ているのか。
「トップライン(売上高)は伸びたけどボトムライン(純利益)は伸びておらず、来期も30億円の見通しです。中期ビジョンで2028年3月期、事業年度では2027年度に『売上高600億円、営業利益60億円』を掲げました。毎週、役員間で話し合い、どうやって達成すべきかを議論しながらさまざまな施策を打っています」
株価についてはどうか。本稿執筆時の株価は「1128円」(10月9日終値)、時価総額は「319億1800万円」(10月9日時点の仮数字)となっていた。
「株価・時価総額は『経営者の通信簿』です。今の株価に対しては自己採点で20~30点。業績もあまり上がっていないので真摯に受け止めています。経営者への評価は企業価値の拡大(時価総額)もあるので、市場の期待に応えていかないといけません」
業績とともに注力するのが、事業活動の「見える化・見せる化」だ。
「フリュー=プリントシールの印象が強く、少子化・若年人口減で先細る企業と認識されがちです。でもフリューオリジナルのプライズシリーズ『ミルキーボア』に代表されるぬいぐるみやマスコットなどのキャラクタービジネスが好調で、あまり知られていない成長要素もあります。そうした実情も伝えていきます」
将来を見据えて女性の幹部社員を抜擢していく
社内の人材活用については事業環境の変化もある。
たとえば同社も注力する「IP」(Intellectual Property:知的財産)の重要性が浸透したのは、この十数年だ。日本のアニメ、ゲーム、漫画などに登場するキャラクターや世界観はグローバルでも評価が高い。著作権や商標権にも携わる人材はどう育成してきたのか。
「IP分野ではヘッドハンティングがうまくいきました。取引先に優秀な方たちがいたのでオファーを出したら2人来てくれたのです。今では事業部長クラスとなり、新卒で当社に入社した人も、その環境で学んで育ったという好循環になっています」
今後、進めていきたいのは女性幹部の登用だ。
「現場レベルでは進んでおり、たとえばプリントシール機でメインの企画をする人は20代の女性。上の世代の知見も受けながら、消費者と近い若手が担当しています。ただ部長や役員クラスは中高年男性中心になる。将来を見据えて抜擢人事も行っていきます」
創業者の田坂氏は大株主で、所有株式数で約20%(※2)となる。同氏との関係はどうか。
「事業には関与しませんが良好な関係で、私の課題認識や施策にも理解いただいています。この間も組織開発系の動画を一緒に視聴しながら意見交換をしました」
プリントシールで培った「かわいい」は「ミルキーボア」をはじめとしたクレーンゲーム景品の商品づくりなどにも反映されている。今年7月には、「かわいい」をプロデュースし発信する「フリューかわいい研究所」を立ち上げた。その持ち味をグローバルでも訴求していく。
(文=経済ジャーナリスト・高井尚之 撮影=石橋素幸)
(企業概要)
フリュー株式会社
事業内容:クレーンゲーム景品(プライズ)、海外向け物販、プリントシール機の企画・開発、プリ画取得・閲覧サービス「ピクトリンク」の運営 など
法人設立:2007年4月1日
資本金:16億3921万円(2025年3月末現在)
連結売上高/経常利益:443億500万円/22億8000万円(2025年3月期、グループ計)
連結従業員数:社員537名=男性240名、女性297名(2025年3月末日現在)
本社所在地:東京都渋谷区