「お金持ちになれなくてもいい。ただ、お金に悩まない楽しい人生を送りたい」——。そんな願いを抱くプレジデントグロース編集部員が、金融機関の「中の人」・花村泰廣さんにガチ相談! 初心者にも分かりやすく、投資の質問にホンネで答えます。第4回のテーマは「投資信託を運用している人の意外な仕事」。
花村泰廣(はなむら・やすひろ)
アセットマネジメントOne 未来をはぐくむ研究所 主席研究員。2006年から投資信託の商品開発、パンフレット制作、各種シミュレーション・ツールの開発などを担当し、約40年近く一貫して投資関連業務に携わる。好きな相場格言は「谷深ければ、山高し」。
プレジデントグロース編集M
40代後半の男性。妻、二人の子どもと四人暮らし。子どもが幼いため、今後の教育資金やライフイベントで発生するお金を企業型DCだけで賄えるのか悩んでいる。好きな金融用語はテンバガー。
ファンドマネジャーと競馬の予想師はどう違うのか?
投資信託はプロに任せることができてラクですが、疑りぶかい性格なので、運用するファンドマネジャーを信頼してよいのか不安です。そもそも顔も見えませんし。彼らは何を根拠に投資判断を下しているのでしょうか。データを基に予測するという意味では、競馬の予想師と変わらないのでは?
投資は不確定な未来を予測するものだと捉えてしまうと競馬の予想師を連想してしまうかもしれませんが、実際は目的としているものがまったく異なるんです。
言ってみれば、競馬は「どの馬が勝つか」を予想して馬券を買い、当たれば払い戻しを得る仕組みです。あえて例えるなら、デイトレーディングは競馬と考え方が似ているかもしれません。300円で買った株を310円にして売るなど、短期的な視点で動くからです。
しかしファンドマネジャーは長期目線で予測を立て、さらに価格以外の付加価値も考慮します。「インベストメントチェーン」という言葉を聞いたことはありますか?
はじめて聞きます。
「インベストメントチェーン」とは、投資家が運用会社に資金を投資し、運用会社が企業にその資金を投資することによって企業が成長すると、社会に対して持続的な価値拡大をもたらし、さらにその利益が最終的に賃金などの形で家計まで還元される一連の流れのことです。ファンドマネジャーは、こうした長期的な視点で投資する企業を選択します。
ですから短期の株価変動ではなく、企業のビジョンや経営者の人間性なども重視して投資判断を下しているのです。
経営者の人間性まで!? どうやって調べているのですか?
まずは有価証券報告書やIR資料といった公開情報を読み込みます。しかし、それだけでは情報としては不十分なので、企業と1on1(ワンオンワン)を行い、経営者の考えや戦略を直接確認します。
また、経営者本人からの話だけでは足りない場合は、裏取りとしてライバル企業や取引先へのヒアリングも行い、数字に現れないリスクや成長要因を探ります。
新聞記者のような緻密な調査をしているんですね。
多い人だと年間で200〜300社と1on1を行います。特に、IPO前後の小型株など、中規模程度で今後成長可能性が高い企業では1on1がものをいう世界です。
といっても、インサイダー情報などを得ようとしているわけではなく、あくまでも経営者のビジョンを聞き、会社の事業はそのビジョンの通りに展開されているのかを分析するなどして、経営者の人物像や信頼性を評価します。
そんなに足を使っているとは知りませんでした。地道な情報収集と分析力が重要なんですね。
そうですね。あとは経験も必要。人にもよりますが、ファンドマネジャーとして活躍するのは40代前後の人が多いですね。10年以上の経験を経て脂がのるのが、この時期です。
また、中には若い時から優秀な人もいますが、ある程度の経験を積むことも重要ですから、新人がいきなり巨額の運用を任されるのではなく、パイロットファンド(新しい運用戦略や最先端技術の活用を試すための試験的な投資ファンド)などで経験を積む仕組みがあります。
それを聞いて、安心して預けられる気がしてきました。
信頼できるファンドを見極めるコツとは?
そのうえで、投資信託の成績はファンドマネジャーの実力に左右されるのでは、と感じるのですが。
一般的には「カリスマ的なファンドマネジャーが運用のすべての判断をしている」という印象を持っている人も多いですよね。
しかし、実はファンドマネジャーの他にもアナリスト、リスク管理部門、法務、トレーダーなど常に複数人のチーム体制で運用を行っています。ですから、ファンドマネジャー個人の実力で成績が左右されるのではありません。
チームプレーで運用されていたんですね!
そうなんです。というのも、投資は継続性が何よりも重要。個人の実力に依存してしまうと、万が一その人が退職してしまった場合に、受益者(投資家)に対して運用の継続性を担保できなくなってしまいます。そうなることを防ぐために、各部署が連携しチーム体制で運用を行うことが重要なのです。
それから、ファンドマネジャー1人では集められる情報にも限りがあります。さらに、細かく定められたコンプライアンスやファンドのレギュレーションを見落としてしまう可能性もある。だからこそ、リサーチやコンプライアンスなどそれぞれの専門家とチームを組んで運用を行う必要があるのです。
ちなみに、ファンドマネジャーとトレーダーの役割はどう違うんですか?
一言で表すなら、ファンドマネジャーとは運用における意思決定を行う人のことです。「どの企業に投資するか」「どんな資産配分にするか」などを戦略的に判断します。
一方、トレーダーはファンドマネジャーの指示に基づいて、実際に市場で注文を出す専門職です。どの証券会社に注文を出すか、どのタイミングが最も効率的かを判断します。トレーディング技術次第で運用パフォーマンスも変わってきますから、とても重要な役目を担っています。
個人投資家の目線でアドバイスするとすれば、単にファンドマネジャーの顔や経歴を見るのではなく、統制の取れた組織的な運用を行っているか、ファンドの継続性やパフォーマンスの再現性を見極めることが重要です。
花村さんもそういう人たちと投資信託を作ってきたんですよね。いやあ、尊敬します。正直、競馬の予想師みたいな人かと思っていたので。
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(構成=吉田彩乃、写真=市来朋久)