上場5年で時価総額100億円…東証グロースの改革はなぜ「当然」といえるのか

課題は多いものの、株高が続き活気を取り戻しつつある日本経済、そして日本企業。そこへ熱いエールを送るのはボストンコン サルティング グループ(BCG)日本法人やドリームインキュベータを率いた“伝説のコンサルタント”堀紘一さんです。今回は、東証グロース市場が打ち出した「上場5年で時価総額100億円以上」という、新たな上場維持基準の是非です。

下位100社は売上高10億円以下…「中小企業」に上場の価値はあるか

東証グロース市場の上場維持基準は、現在の「上場から10年経過後に時価総額40億円以上」から、2030年以降に「上場から5年経過後に時価総額100億円以上」に変更されると報道されています。

私はベンチャーへの投資とコンサルティングを行う企業ドリームインキュベータの創業者として、これまで20年以上にわたり、海外も含めてスタートアップ企業への投資を行ってきました。ベンチャー投資家としての私の目には、今回の東証の基準変更は「ごく当然のこと」と映ります。

600社を超えるグロース上場銘柄のうち、現時点で改定後の基準を満たしている企業は200社程度だそうです。

一方、時価総額ではなく売上高で見ると、東証グロース市場には年間の売上高が100億円以上の会社は120社ほどしかなく、下位100社は年間売上高10億円以下であり、1000万円以下(売上高「なし」を含む)の会社も20社近くあります。

年間売上高が100億円未満の会社は、スタートアップといえば聞こえは良いですが、世間的には中小企業という評価です。そうした会社でも上場すると、場合によっては時価総額が100億円以上になるわけですが、実際は公開市場での株式の売買はごくわずかとみていいでしょう。経営陣やその知り合い、会社の内情をよく知るベンチャーキャピタルなどが株式を保有しているだけで、上場していてもしていなくても、大して変わらない状態といえます。

東証としては、「そういう会社は今後、うちでは扱えません」と言っているわけです。そのように考えるのは、マーケットメーカーとしては当たり前のことで、その決定に対して「けしからん」とか「なんとか上場企業として扱ってくれ」と言うとしたら、そちらのほうがおかしいでしょう。取引所としての採算を考えると、会社が大きく成長するまでの間、今は規模が小さくとも一時的に扱うということであればともかく、会社がいつまでも成長しないのに、ずっと扱い続けるわけにはいきません。

むしろエンジェルなど専門投資家の出番

時価総額が仮に200億円あったとしても、売上が年間10億円、20億円程度であれば、実質的に一般の人々の目を引くほどの経済活動はやっていないのです。はたしてそうした企業が上場する意味があるのでしょうか。会社としての上場のメリットが、上場維持に必要なコストをカバーできているかどうかも疑問です。

そうした企業については、「もう少し大きくなってから上場を考えなさい」という扱いで問題ないでしょう。上場していなくとも、「今は小粒だけれども将来性のある企業だ」と見なされれば、未上場株を扱う投資家やエンジェル投資家が資金を投じてくれるはずです。実績のない企業にはスタートアップ投資の専門家が出資すればいいだけで、一般の人から広く出資を募る「上場」という形をとる必要はないのです。

(構成=久保田正志)