株式上場は経営者にとってゴールではなく出発点だ。上場からおよそ10年にわたり、企業価値を伸ばし続けた経営者は何に注力してきたか、そして今後の10年で何を目指すのか。目線の先を語ってもらうPRESIDENT Growth連載【トップに聞く「上場10年」の成長戦略】。今回のゲストは、ジェイリース(2016年、東証マザーズ上場=現在は東証プライム市場上場)を率いる中島土社長――。
連帯保証人の代わりを務める家賃保証会社とは
少子高齢化が進み、地縁・血縁の関係が薄れた現在、住居や店舗、オフィスを借りたい人にとって契約時に「連帯保証人を立てる」のが難しいケースも増えた。
そうした状況を受けて成長したのが、家賃保証会社の「ジェイリース」(本社:大分県大分市、東京都新宿区)だ。
家賃保証会社とは、入居者(賃借人)が家賃を滞納した場合、当人に代わって支払う存在。これまでなら家族や親戚・友人などが連帯保証人になるケースが多かったが、時代の変化や後述する事情により個人が保証人になることを好まなくなった。
ジェイリースはどのような経緯で創業し、どんな事業活動をしているのか。2023年から同社を率いる中島社長に聞いた。
中島 土(Tsuchi Nakashima)
1982 年1月生まれ、大分県大分市出身。中央大学経済学部を卒業後の2004年、アコムに入社。2011年、ジェイリースに入社。2012年、取締役常務兼執行役員 経営管理本部長兼審査本部長。2014年、取締役専務執行役員 経営管理本部長。2018 年、取締役副社長執行役員 審査本部長。2023年6月から代表取締役社長(現任)。日本青年会議所では2022年度会頭(第71代)を務めた。
青年会議所(JC)の有志が集まり設立
「当社は2004年、若手経済人の社会貢献組織である青年会議所(JC)のメンバーが中心となって設立した会社です。『無縁社会』と言われる中、連帯保証人が見つからなくて部屋を借りられない、事業を始めるための店舗が借りられないといった社会の不公平はどうしたらなくせるか──。そんな社会課題を解決するための手段として浮かび上がったのが、家賃保証会社による保証という考え方です。九州で最初の家賃保証会社としてスタートした当社で初代社長(現在は会長)に就任したのが私の父である中島拓でした。ちなみにジェイリース(英語表記はJ-LEASE Co.,LTD.)の“J”は、入居者・不動産オーナー・不動産管理会社をつなげる=ジョイント(joint)に由来しています」(中島社長、以下特記のない発言は同氏による)
業績も好調で、2025年3月期決算は連結売上高172億6700万円、経常利益が30億9700万円と6期連続の増収・増益。近年は大都市圏でも事業を拡大する。なぜ成長できたのか。
「当社が成長できた背景を考えると、人に恵まれたことがまず大きいと思っています。当社はJCメンバーが中心となり設立されたと申し上げましたが、全国のJCには各県を代表する不動産会社の後継者が多かったこともあり、創業当初から不動産会社との連携がスムーズでした。また、そうした信用も背景に地方銀行出身の方々が参画してくれました」
家賃保証会社の利用比率は「8割」に急上昇!
「もう一つ大きな要因をあげるとすれば、2020年に民法が改正されたことです。部屋を借りるとき保証人を立てるハードルが結果として上がってしまい、私たち家賃保証会社の出番が増えたのです」
これには解説が必要だろう。2016年に中島拓会長(当時は社長)がインタビューで次のような見解を述べている。
「約120年ぶりの民法改正で、連帯保証人に保証の上限額が設けられるため『極度限度額として2年分の家賃240万円の保証人になってください』といった契約になりますから、保証人になりたがらない人が増えるでしょう」(2016年6月22日付「日本経済新聞」より抜粋のうえ語調を調整)
保証の限度が明示されるのは保証人にとってはいいことだ。しかし一方で、責任の重さが大きな金額で示されるため(上記の例では家賃10万円の保証人ではなく240万円の保証人)、近い関係の相手でも簡単には保証人になってくださいと頼みにくくなった。頼む側も頼まれる側もハードルが上がってしまい、拓氏の見通しは当たっていたといえよう。
その結果、「賃貸契約で当社のような家賃保証会社を利用する割合は年々増えています。国土交通省の調査では、2010年には39%だった利用率も2018年には約60%、2021年には80%に上昇。2020年の民法改正後に連帯保証人から家賃保証会社に切り替える不動産オーナーも多く、不可欠の存在になってきました」という。
もっとも、「80%」というのは住居用不動産の場合である。オフィスや店舗など事業用不動産の賃貸契約だと、その比率はまだ「20%強」にとどまる。今後は「事業用にさらに注力していきたい」というのが中島社長の考えだ。
直近の新卒3年離職者「ゼロ」の理由
ところで、家賃保証には社会貢献の意味合いもあるが、それだけではビジネスにならない。ジェイリースは、外部データを用いた精緻かつ迅速な審査と高い回収率でも知られている。
一方で、同社は入居者に対してお金の使い方を含む生活改善のアドバイスも行っているといい、そうした細やかなサービスが高い回収率に現れているということだろう。データをフル活用したシビアさを持つ半面、おせっかいで優しい。その社風は独自の「理念経営」に由来している。
同社の理念の中核は「全社員と私たちに関わる全ての人の幸せを追求します。」である。一番先に記されているのが「全社員」であることに注目したい。直近3年の新卒採用者のうち、現時点での離職者はなんと「ゼロ」(採用は年間10~20人ほど)。ちなみに厚生労働省の調べによると、500~999人規模の会社で大卒者の3年以内離職率は「32・9%」に達しており、500人強のジェイリースでこの数値は驚異的といっていい。
理念の浸透により「会議の雰囲気も変わりました。たとえば目標数字が達成できなかった場合、以前は『なぜ未達成なのか』と原因を洗い出していましたが、現在は『その中でできたことは何か、どうすれば達成できるか』というサポート型となり、本音が言いやすくなっています」という。
社長の役割を、「会社の理念、会社の目的、会社のビジョンのしもべ」と位置づけている。泥臭い表現だが、自身も長く籍を置いたJCで培った目線が大きいようだ。
祖父、父から「お前は社長になれ」と言われて育つ
そしてもう一点、忘れてはならないのは、中島氏が事業を営む祖父や父から大きな影響を受けて育ったということだ。
「私は幼い頃から祖父と父に、『いいか土、お前は将来社長になるんだ』と言われて育ちました。祖父は当時土木業を経営しており、私の名前『土』もそこから名づけられ、職場にもよく連れていってもらいました。
大学時代には父が発起人の1人としてジェイリースを設立。父からは、『お前も将来は起業して社長になれ』と言われたこともあります。
ただ、私の場合は起業するのではなく、他社での会社員生活を経て、気がつけば父と同じ会社に入社していましたが」
「父の跡を継いだ息子」というケースは何度も取材してきたが、昔とは様変わりした。前任者である父の方針に対して猛反発する例が減り、リスペクトする後継者が多いのだ。情報共有が進み、お互いがソフトな対応を求められる時代性もあるだろう。
「入社してから社長に就任するまで父の判断基準を学びました。現在も会長ですので折に触れ相談はしています。ただし、業務執行は任されていて、思い切り挑戦できています」
中島氏が経営者としての意識を高めたのは、JC活動を始めてから。「一言でいうと、人づくりと町づくりをする団体」(同氏)での無償奉仕。各地のお祭りから災害復旧支援まで参加して汗を流す。本気の理念追求もここで学び、見聞を広めたという。2022年には第71代会頭に就任(任期は1年)。翌年、ジェイリース社長に就任した。
自己採点は「80点」だが、本音は……
時期は前後するが、上場後の株価についても見ていきたい。
2016年6月22日、「ジェイリース」は東京証券取引所マザーズ市場(当時)に新規上場した。マザーズ上場時(始値)の時価総額は41億円、その後東証プライム市場へ移行し、本稿執筆時の時価総額は242億円に達している。
業績を含めて、これらの数字を中島氏はどう見ているのか。
「自己採点はあえていえば80点です。株価は結果がすべてで数字は実績を踏まえた市場の期待値だと思います。ですが、私たちの成長性はそんなものではありませんので、正直なところ現状の株価は決して満足できる水準ではありません。
しかしながら過去最高の売上と利益を更新し続けている実績は社員が本当に一生懸命作ってくれたものです。それを反映した株価という意味では決して低い評価をすることはできません。
私は、①会社、②商品、③職業、④自分という『4つの自信』を自分に課しています。おこがましいのですが、すべて100点となるよう努力したい。社員が自分の会社や商品、職業に誇りを持てるためにも本当なら100点をつけたいのです」
後継は「本気と覚悟を持っている人」に
中島氏には現在、高校生と中学生の娘がいる。跡継ぎとして考えているのか。
「まったく考えていません。娘たちはそれぞれの夢があり、父親として応援しています。上場企業の経営トップは透明性を求められる時代、公平な視点で選んでいただきたいです。
ただし私なりの思いはあります。後継者の条件としては、当社の理念やビジョンを本気で実現するために覚悟を持ってできる人。年齢・性別・国籍は関係ありません」
冒頭に記した地縁・血縁の関係が薄れ、無縁社会ともいわれる現代。同社は高齢者や外国人のような賃貸契約が難しいと思われていた人にも債務保証を行う。
社長の名前でもある「土」は、砂や粘土などの無機物や落ち葉などの有機物、生物が混ざり合って土壌となり、「植物の生育に必要な存在」になる。目指す道を暗示するようだ。
(文=経済ジャーナリスト・高井尚之 撮影=石橋素幸)