
「お金持ちになれなくてもいい。ただ、お金に悩まない楽しい人生を送りたい」——。そんな願いを抱くプレジデントグロース編集部員が、金融機関の「中の人」・アセットマネジメントOne 未来をはぐくむ研究所 主席研究員の花村泰廣さんにガチ相談! 初心者にもわかりやすく、投資の質問にホンネで答えます。第1回のテーマは「そもそも、なぜ投資が必要なのか?」。

花村泰廣(はなむら・やすひろ)
アセットマネジメントOne 未来をはぐくむ研究所 主席研究員。2006年から投資信託の商品開発、パンフレット制作、各種シミュレーション・ツールの開発などを担当し、約40年近く一貫して投資関連業務に携わる。好きな相場格言は「谷深ければ、山高し」。

プレジデントグロース編集S
30代前半の女性。新NISAブームに乗ってNISA口座を開設した。とりあえず人気銘柄を選んだが、将来の目標金額も、何のために投資をしているのかも漠然としており、今後の投資スタイルに悩んでいる。好きな金融用語はインカムゲイン。
インフレの今、投資が必要な理由とは?

物価が上昇し、生活費も上がってきました。ただでさえ暮らしに余裕がないですが、そのうえさらに生活費を切り詰めてでも投資をするべきなんでしょうか?
そもそもですが、皆さんのライフステージの中で、お金は必ず必要になりますよね。特に住宅購入費用や子供の教育費、老後の生活費などのために貯蓄をしている人は多いと思います。


私も、将来のことを考えてある程度の貯蓄はしています。
私が1986年に社会人になった頃は定期預金の金利が5〜6%でしたから、預金をしているだけでどんどんお金が増えました。ところが、今の時代はそこまで金利が上がらなくなっています。

一方でインフレは続いています。インフレというのは物の値段が上がるということですが、裏返して見れば、お金の価値が減っているということです。


それは困ります!
だからこそお金を目減りさせないために、インフレを上回るリターンが期待できる投資をすることが必要になってくるのです。



でも、投資といっても種類がありすぎて、どれを選ぶか悩んでしまいます。
確かに金融商品には、株式や債券、投資信託などがあり、何から始めたらいいのか迷ってしまいますよね。

私がおすすめしたいのは、少額投資非課税制度(NISA:ニーサ)や確定拠出年金(企業型DC、iDeCo:イデコ)といった非課税制度を活用した投資信託への投資です。投資の基本は「長期・積立・分散」と言われていますが、それを実践しやすいのが投資信託だからです。

2025年には確定拠出年金に関して大幅な改正が予定されています。これが施行されたら非課税で投資できる確定拠出年金の金額が今よりも増えますので、老後の生活資金を準備したい方は使いこなしてみてはどうでしょうか。


検討する際には、現在の自分の年齢も重要ですか?
人それぞれライフプランがあると思いますが、どれくらい働く期間が残っているかを前提に考えるべきでしょう。私は、NISAと企業型DC、iDeCoを活用すれば、若い方であれば準富裕層を目指すことも可能だと思っているんです。


積立投資だけで可能なんですか!?
長期にわたって積立投資が可能な20代、30代の方はある程度のリスクも取れますからね。株式を100%組み入れた株式ファンドを検討してみてはいかがでしょうか。

一方、働く期間が短くなった人に関しては、株式と債券を組み合わせ、リスクを抑えたバランスファンドを選ぶのがいいと思います。


定年まで残り30年以上あります。株式ファンドに投資をして資産が大きく膨らんだ場合は、どうすればいいですか?
2024年に始まった新NISAの非課税投資枠は1800万円が上限ですが、売却をした場合は翌年に非課税投資枠が復活します。リタイアが近づいてきたら、それまで積立投資を続けてきた株式ファンドを売却し、売却益の部分は手元のキャッシュとして生活費などにあてながら、元本部分はバランスファンドなどの再投資にまわして、運用資産全体のリスクを落としていくことも可能になっています。


そもそも、この先もインフレって続くんでしょうか? 私は30代前半なんですが、生まれてからつい最近までずっと、デフレの社会で暮らしてきました。

だから、今はたまたまインフレの傾向だけど、そのうちまたデフレの時代になるんじゃないのかなと思ってしまうんです。そうすると、投資を始めてもデフレになったときに今期待しているメリットが得られなくなりそうで不安です。
正直なところ、未来を予測することなど誰にもできません。


投資のプロフェッショナルの花村さんでもわからないとなると、ますます不安です(笑)。
需要拡大などの要因でインフレが起こる「ディマンドプルインフレ」はある程度調節できますが、円安を要因とした今の「コストプッシュインフレ」は調整が難しいことは確かです。この先数年レベルで2~3%のインフレが続いていくのを前提に、自分がどんな投資をしたいか考えていくのがいいと思います。


投資は4%程度のリターンを目標に始めたい

自分がどんな投資をしたいか、まだ決まっていません。何から考えればいいんでしょうか?
資産形成の方法はひとつではありません。投資信託や株式、REIT(不動産投資信託)に投資をするのでもいいし、自分の事業や不動産に投資をしてもいいのです。要は、自分がどういうふうに資産形成をしていきたいかを検討してみてください。

そして、目標とする利回りは、インフレから資産の目減りを防ぐためにも4%程度のリターンを目指したいところです。


4%のリターンというと、例えば100万円投資しても年に4万円しか増えないということですよね。投資する意味があるのかな? とも思ってしまいます。
投資はギャンブルではありませんよ(笑)。

どれだけ多く資産を増やすか、ではなく、インフレに負けない資産運用をして、ということをベースに考えてください。日本銀行も物価上昇率の目標を2%に設定して金融政策を調整しています。であれば、投資はそれを上回る4%程度のリターンが妥当でしょう。

もちろん、投資期間が長く取れる方であれば、もう少しリスクを取って、それ以上のリターンを目指してもいいと思います。余談ですが……


なんでしょうか?
1970年代にオイルショックが起きたときに私は小学生だったのですが、母親がトイレットペーパーを買うのに必死になっていた姿が今も目に焼きついています。

インフレがいかに恐ろしいか身をもって体験しているので、今のところは2〜3%の物価上昇を前提に4%程度をめどに投資を始めるのは意味があることだと自信を持って言えるのです。


だから最初に「インフレを上回るためにも投資が必要」とおっしゃっていたんですね。投資はインフレに対する防衛策ということがよくわかりました。資産を増やすためではなく、守るために投資をするべきなんですね。
その通りです。可能性は低いと思いますが、仮に物価上昇率が5%、6%とどんどん上がっていくような状況になってしまったら、それに合わせて株式の組み入れ比率を増やすなどして運用目標も引き上げていけばいいと思うのです。

インフレを上回る投資成果を目指す運用をしていく、という意思を強く持って投資に臨んでください。

(構成=吉田彩乃、写真=市来朋久)