fv_木野内栄治さん

3月には日経平均株価が史上初の4万円超えを記録した一方で、8月には歴史的な暴落を記録するなど、日本の株式市場にとって激動の一年となった2024年。2025年はどのような相場が待ち受けているのだろうか。 2025年に注目しておきたいテーマについて、日本経済新聞社のアナリストランキングにおいて20回も1位を獲得している日本屈指のアナリスト、木野内栄治さんに話を聞いた。

2025年も続くAI相場の波。次の注目テーマは?

2024年の株式市場ではAI関連セクターが大きな注目を集め、特に春先は、AI半導体が相場の中心となり、エヌビディアなどの銘柄が牽引役を果たしました。AI技術の中核を担う半導体分野は、引き続き市場の期待を集めましたが、後半にはそのテーマから派生し、データセンター関連に移行。データセンターはAI技術の普及を支える重要な基盤であり、送配電網や高速光ケーブルといった関連銘柄が新たな物色対象として注目されました。

こうした流れを受けて、2025年もAI関連セクターが相場の重要なテーマであり続けると予想されます。ただし、2024年のような基盤技術に焦点を当てるだけでなく、さらに一歩進んだ「AIソリューション」に注目が集まると考えられるでしょう。AIソリューションとは、AIを活用して企業の課題を解決するためのサービスであり、物流やカスタマーサポートなど幅広い分野での導入が進んでいます。例えば、物流分野では効率的な配送ルートの提案、カスタマーサポートではチャットボットによる24時間対応が可能となり、さまざまな業界で業務効率の飛躍的向上が期待されているのです。

一方で、2024年のテーマだったAI半導体やデータセンター関連も引き続き重要です。これらの分野には依然として解決すべき課題が多く、技術的進化や需要拡大が見込まれることから、引き続き「買い」の目線で見てもよいでしょう。

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木野内栄治さんへの取材をもとに編集部作成。

AI成長の裏に潜むエネルギー供給の課題

AIデータセンターの急速な普及が進む中、その運営に欠かせないエネルギー供給とインフラ整備が大きな課題として浮上しています。AI技術が膨大なデータを処理する過程でデータセンターは膨大な電力を消費するため、エネルギーの確保や送電網の整備が市場の新たなテーマとなっていると考えられます。

特に、九州では太陽光発電の導入が進み、発電量が余るほどの状況にあります。しかし、九州と本州を結ぶ送電網(連携線)の整備が不十分で、余剰電力を本州の需要地に送れず、多くの電力が無駄になっているのです。この課題を解決するため、関門海峡や四国経由で近畿圏への電力供給を可能にする送電網強化計画が進行しており、これがエネルギー市場の注目ポイントとなっています。

また、北海道は偏西風を利用した風力発電に適した土地が多く、欧州に匹敵する条件を備えています。特に、広大な陸上での風力発電の拡大が期待されます。しかし、発電した電力を首都圏に供給するためには、高圧直流送電網の整備が欠かせません。このプロジェクトが進めば、北海道の風力発電が首都圏のエネルギー需要を支える基盤となり得ます。

再生可能エネルギーの分野では、次世代の技術としてペロブスカイト型太陽電池が注目されています。この技術は、従来のシリコン型太陽電池に代わる新素材を使用したもので、超薄型かつ軽量です。そのため、都市部のビルの壁面や電柱にも取り付けられ、これまで発電が難しかった場所でも効率的な発電が可能です。また、少ない光でも発電できる特性を持ち、国土面積が限られる日本においても再生可能エネルギーの導入を大幅に拡大するポテンシャルを秘めています。こうした特性から、ペロブスカイト型太陽電池は次世代のエネルギー技術として大きな期待を集めています。

さらに、原子力発電の分野では、小型モジュール炉(SMR)が脚光を浴びています。特に既に建設実績がある「高温ガス炉」は、安全性が高いだけでなく、発電過程で水素を生成できることが利点。高温ガス炉は運転中の温度が非常に高いため、副産物として水素を効率よく作り出すことができるのです。この水素は、再生可能エネルギーの主力として期待されていますが、水素のままでは取り扱いが難しいため、補完的なエネルギーキャリアとして現在は主にアンモニアの状態にして利用しています。アンモニアは比較的低温で液化しやすく、輸送や貯蔵が容易であるため、水素エネルギーを活用する手段として理想的です。

これらの動きは、AIデータセンターが必要とする膨大な電力をどのように持続可能にして供給するかという課題に直結しており、エネルギー分野全体が新たな市場拡大の場として注目されています。

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木野内栄治さんへの取材をもとに編集部作成。

保護主義相場の特徴は駆け込み需要から始まる

2025年1月からトランプ政権(2期目)がスタートすることで、米国市場は再び保護主義政策の影響を受けると予想されています。1期目(2017–2021年)の政策でも見られたように、関税引き上げや輸入制限は市場に特有の動きをもたらします。その中でも特筆すべきは、「駆け込み需要」です。関税が引き上げられる前に、消費者や輸入業者が急いで商品を購入・輸入しようとするため、短期的に消費と生産が活発化します。

具体例として、2018年の米国市場では制裁関税の影響を前に、消費や生産が一時的に急増しました。この動きは2025年前半にも再現される可能性が高く、米国市場に関連する銘柄に注目が集まるでしょう。一方で、保護主義政策の悪影響が本格化する後半には、景気の冷え込みが懸念されます。こうした相場の二面性を理解し、柔軟な投資戦略を取ることが重要です。

①値上がりの前に……PCやiPhoneに買い替え需要

2025年には、Windows 10のサポート終了に伴うPC更新需要が見込まれています。また、iPhoneをはじめとするスマートデバイスの買い替え需要も高まる時期です。これにより、アップル関連や半導体分野に関連する銘柄が注目されるでしょう。

②次世代エネルギー技術への期待

電気自動車(EV)の普及を背景に、全個体電池の開発が加速しています。この電池は高い安全性と効率性を持ち、次世代のエネルギーインフラとして注目されています。日本の大手自動車メーカーがリードするこの分野は、長期的な成長が期待できるでしょう。

③中古の売り物件が少なく新築住宅の需要が高い

米国住宅市場では、新築住宅メーカーが注目されています。低金利のローンを組んでいる既存住宅保有者が新たに住み替えをしようとすると、高金利の状況が続く現在では金利負担が急増するため、中古住宅の売り物件が極端に少なくなっているのです。この市場全体の供給不足が、新築住宅需要を押し上げる要因となっています。

特に、住友林業は米国における個別住宅建設でシェアを持つ企業の一つです。同社をはじめ、積水ハウスや大和ハウス工業も米国での住宅建設事業を展開しており、新築需要の恩恵を受ける可能性があります。加えて、米国ではトランプ政権下で国有地の開放が進む見通しで、住宅建設用地の供給拡大が市場全体を後押しする可能性があります。

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木野内栄治さんへの取材をもとに編集部作成。

国策に売りなし! 政策が生む安定需要

2025年の後半は、保護主義による駆け込み需要が一巡し、相場が失速する可能性があります。前半に活発化した消費や生産が、後半には反動として停滞する展開が予想されるため、相場全体の見通しは慎重にならざるを得ません。

こうした中で注目すべきは、「国策関連銘柄」です。相場の格言に「国策に売りなし」という言葉があるように、国家予算が投入される政策分野は、景気の良しあしに関係なく需要が喚起される特徴があります。特に、2025年は石破政権の下で新たに設立された「防災庁」や、4月に開催される大阪万博とその跡地利用計画としてのカジノ(統合型リゾート)に関連する銘柄が注目されています。

これらの国策テーマは、長期的な政策サポートが期待されており、相場が冷え込む中でも一定の安定感を提供する存在となるでしょう。

①大阪万博とIR関連

2025年4月に開催される大阪万博は、国内外から多くの来場者を集める一大イベントであり、その経済波及効果は計り知れません。特に、万博会場の運営やエンターテインメント施設の展開に加え、万博終了後の跡地利用計画としての統合型リゾート(IR)事業にも注目が集まります。

②「103万円の壁」引き上げの恩恵

日本政府はパート収入の非課税枠である「103万円の壁」の緩和を検討しており、これによりパート労働者の就業時間が増える可能性があります。この政策は外食産業や小売業にとって追い風となるでしょう。

③防衛・防災関連

石破政権の下で設立された防災庁は、災害対策の司令塔として機能し、全国規模のインフラ強化を推進しています。特に、上下水道の耐震化や地震対策工事が活発化する中、関連する建設・設備企業に注目が集まります。一方、防衛関連では、国防予算の拡大に伴い、レーダーや航空機用電子機器を手掛ける企業や、防衛施設の建設を担う企業が注目されています。

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木野内栄治さんへの取材をもとに編集部作成。

急成長から安定へ、2025年の投資は“転換点”をつかむ

2025年の株式市場は、前半と後半で大きく異なる展開が予想されます。前半は、保護主義による駆け込み需要やテクノロジー分野の買い替え需要が市場を押し上げる一方、後半にはその反動で相場の失速が懸念されています。このような相場の二極化に対応するためには、柔軟かつ戦略的な投資姿勢が求められます。

例えば、前半はAI関連銘柄を中心に成長テーマに乗る投資が有効です。特に、AIソリューション分野は今後の事業革新を支える重要なセクターとして注目されています。一方で、後半の相場失速を見据え、国策関連銘柄へのシフトも検討すべきでしょう。大阪万博関連や防衛・防災関連の銘柄は、景気に左右されにくく、安定した人気が見込まれる分野です。

2025年の株式市場は、多くの変化と新たな挑戦を伴う一年になるでしょう。しかし、変化が大きい時期だからこそ、新たなチャンスが広がっています。市場のトレンドを冷静に見極め、自分自身の投資スタイルを再確認することで、明るい未来への第一歩を踏み出しましょう。2025年も、皆さんが自信を持って投資に臨めるよう応援しています!

(取材協力=木野内栄治 構成=渡辺一朗 図版作成=大橋昭一)