5分野の反対理由が「女性には向いていないから」
この調査では、「一般的に考えて、女の子」の進学先分野にどの程度賛成するかと同時に、賛成・反対の理由についても尋ねています。
先に述べた薬学、情報科学などの分野、それぞれの理由をプロットした表は、次の通りです(図表3)。
賛成する理由で最も多いのは、どの分野でも「就職に困らないから」です。理系分野は全般的に、就職が良いという印象が持たれている様子が見えます。社会科学や人文学などの文系分野は、「文系分野全般」として括りましたが、それらに賛成する理由は「女性に向いているから」です。
反対理由はどうなっているでしょうか。「情報科学」「生物学」「物理学」「数学」に反対する理由は、「就職があるか分からないから」が最も多くなっています。面白いのは、賛成する理由で最も多いのも「就職に困らないから」ですから、どちらの理由も「就職」に関わり、かつ逆になっていることです。
ただ、反対のほうは26人中8人(情報科学)、43人中22人(生物学)など、数はそれほど多くありません。賛成する人たちの母数はもっと大きいので、たいていの人はこれらの分野に賛成しているわけですが、一部の人は「就職があるか分からないから」という理由で反対しています。「電気通信技術」「建築工学」「機械工学」「土木工学」「原子力工学」に反対する理由としては、一定数が「女性には向いていないから」と答えていて、課題を感じます。
ジェンダー平等度が低いと大学進学すること自体に否定的
「獣医学」と「畜産学」の反対理由は「重労働だから」となっています。「STEM(科学・技術・工学・数学)以外の理系」では、看護学では74人中47人が「重労働だから」という理由で反対しています。「薬学」「歯学」「医学」は、数が大きいとは言えないものの、「学費が高いから」という理由で反対しています。
理系分野への進学に賛成する理由は「就職に困らないから」が圧倒的ですが、反対の理由はさまざまです。しかし主に工学系の分野に、「女性には向いていないから」という理由が出てきており、このイメージをどうやって転換していくかと考えさせられます。もし息子を持つ親に男性の進学について同じことを聞いたら、「男性には向いていないから」という理由で反対するゾーンはあまり存在しないのではないでしょうか。この研究を行った後でいろいろ気づいたのは、そのような点です。
この研究では、娘の大学進学に賛成・反対する際に、親自身が持つジェンダー平等度とジェンダーステレオタイプがどのように影響するかについても、〈セスラ―エス〉を用いて測定しました。日本は世界的に見てジェンダー平等度が低いとはいえ、この研究は娘を大学に進学させている人たちが対象です。そのためか、平等度は全般的に高い傾向がありました。
さらに分析の結果、〈セスラ―エス〉のスコアが高い――ジェンダー平等度が高く、ジェンダーステレオタイプが弱い――親ほど、理系・文系のどの分野でも女子生徒が大学に進学することに肯定的であることが分かりました。一方で、スコアの低い――ジェンダー平等度が低く、ジェンダーステレオタイプが強い――親ほど、どの分野でも女子生徒が大学に進学することに否定的でした。
娘さんは実際には大学を出ているわけですから、ここには考えと実態の間にねじれがあります。女性が学問をすること自体に否定的な人が一定数いる、ということだと思います。「親によって、そうした違いがある」ことも再確認しました。