「カップ麺離れ」を生んだデリバリーの普及
上海でロックダウン中の若者数人に「(今回)即席麺を買ったか?」と聞いてみたところ、「仕方なく買ったが、当時はここまでロックダウンが長期化するとは思っていなかったので、それほどたくさんは買わなかった。以前から、即席麺は身体に悪いし、太りやすいし、栄養バランスも悪い、味気ない食べ物だと思って、買うのをできるだけ避けていたから」と話していた人が多かった。
なぜ即席麺の需要はそこまで落ちていったのか。そして、2015年ごろを境目として人気がなくなってきた背景にはどんな理由があるのか。取材していくと、大きく2つの理由があることが分かった。1つ目はデリバリーの急速な普及だ。中国で「飢了么」(ウーラマ)などのデリバリーが発達し始めたのはまさに即席麺の売り上げが落ちてきた2014~2015年ごろ。そして、それは同じ時期にスマホ決済が急速に増えたことと深く関係している。
中国のスマホが大型化し、4Gのサービスが開始され始めたのが2013~2014年。各地でWi-Fi環境が整い始め、通信速度も高速化した。同時にスマホで利用できるさまざまなアプリが誕生。中でも代表的なものが、アリペイ、ウィーチャットペイなどの決済サービスのアプリとデリバリーのアプリだった。
スマホで簡単に美味しい料理や食材が注文できるようになったことで、中国人の食生活は一変した。それまで、都市部の若者の残業飯として定番だった「仕事のデスクで夜遅くカップ麺をすする」というシチュエーションが激減したのだ。
「日本のカップ麺は美味しいけど、中国は…」
上海の独身男性に聞いてみると、「以前は週末も買い置きしていたカップ麺を食べていたが、デリバリーが便利になってからは、温かい中華料理やピザや日本料理を配達してもらっている。そのほうが100倍美味しいし、中国のデリバリーは値段もそんなに高くないから」と話していた。この男性は日本旅行に来て、日本でもカップ麺を食べたことがあると話しており「日本のカップ麺はわざわざ買って食べたいと思うくらいの美味しさ。驚きました。中国のカップ麺はそんなに美味しくない」と言っていた。
2つ目は、中国人の健康志向の高まりによって、即席麺を避けるようになってきたことだ。美食のレストランが急激に増えて選択肢が増えたことや、前述のような自国食品への不信感なども関係していると思うが、もともと中国では公園で体操や太極拳などをすることが盛んであり、医療への不信感、「医食同源」の考え方などもあって健康意識が高い人が多かった。だが、以前は経済的な理由で、あまり健康によくないと思っていても、「早い、安い、手軽」な即席麺に手を伸ばす人が大勢いた。