腸を整えるための2つの方法
ではがんや便秘に繋がる「ディスバイオーシス」とならないため、どのように腸のバランスを保つ、つまり腸を整えればいいのか。
現在、『プロバイオティクス』と『プレバイオティクス』という2つの手法が存在する。
プロバイオティクスとは、生きた良質な菌を直接摂取することを意味する。ヨーグルトや納豆、麹のように乳酸菌やビフィズス菌を含む食物の摂取がこれに当たる。しかし、これらの菌をただ摂取すればいいのではない。
「基本的には生きた菌を口から取ったとしても、多くは胃酸で死んでしまい、腸内には定着せずに流れて便として出るんです」(菓)
口から摂取した菌が腸で増えるわけではないので一度の摂取では意味がなく、生きて腸まで届く菌を、一定量、定期的に摂取することでその効果が実感できるという。
一方、プレバイオティクスは、腸内にいる善玉菌の餌となる成分を摂取するという考えだ。“餌”とは具体的には野菜類や果物、海藻や豆類、穀物などに多く含まれる食物繊維やオリゴ糖のことだ。
食物繊維やオリゴ糖は、小腸で吸収されず大腸まで届き、善玉菌の餌となり分解されて短鎖脂肪酸になる。短鎖脂肪酸が腸内を弱酸性に保つことで、善玉菌が活発になるという。
「下痢や便秘を繰り返す」脳と腸の密接な関係
腸内環境は食物だけでなく、精神的な影響を受けることも分かってきている。
「最近、私が診ている患者さんの便秘は、仕事やストレスが原因と思われる」
八島一夫准教授は、ストレスが原因の便通異常が増えていると指摘する。
「お腹が痛い、調子が悪いと言って来られる患者さんのお腹を内視鏡やエコーなどで調べても何の異常も見られない……これは『過敏性腸症候群』というものです」
『過敏性腸症候群』は、大腸に炎症や潰瘍などがないにも関わらず、下痢や便秘などの症状が数カ月以上にわたって続く病気。原因ははっきりとは分かっていないが、ストレスが症状を悪化させる要因の一つと考えられている。
脳がストレスや不安を感じると自律神経が乱れ、それにともない腸の動きも変化する。すなわち腸が刺激に対して敏感に反応してしまう『知覚過敏』の状態になり、下痢や便秘を繰り返すのだ。
そしてまた、お腹の不調が心配、不安を生むと、脳が信号をキャッチし腸は知覚過敏状態が続くという悪循環に陥る。症状がひどくなると鬱病を併発することもあり、治療は腸と心の両方からのアプローチが必要だ。
「緊張すると、お腹が痛くなることがありますよね。過敏性腸症候群っていうのは、多かれ少なかれ誰もが経験しているはず」(八島)
このように脳と腸のそれぞれが信号を出し合っている関係を『脳腸相関』と呼んでいる。『過敏性腸症候群』は近年増加傾向だ。ストレス社会が腸に大きな負担をかけているのは間違いない。
「腸活」が騒がれるようになった背景に、日本人のライフスタイルの欧米化がある。古来、日本人は、発酵食品を多く摂取し、穀物や野菜中心の食事を続けてきた。ところが、近年は肉や脂を含む食事が多くなり、発酵食品や食物繊維の摂取が不足するようになった。
「食事や運動、睡眠、ストレス発散に目を向けて、生活改善で腸が整うならば、それはそれでいいことです。でも困った症状のある時は、早めに専門家に相談して欲しい」(八島)
今や子どもから高齢者まで、腸に悩みを抱える人は多い。早めの対処と専門家を味方につけることが大事である。健やかな大腸は、健やかな人生をもたらすはずだ。