本社はカンパニーの業務には口を挟まないのが大原則

上記の問題克服のために選ばれたのが、カンパニー制の導入である、ただ、カンパニー制を機能させるには、これまでの組織運営とは異なる大幅な変更が必要となる。

まず、カンパニー(およびカンパニー長)に業務執行が迅速に行えるように大幅な権限委譲を行うことが必要となる。特に投資決定を含む大型案件の決定権を与えることに加えて、カンパニー業務に関するあらゆる意思決定権限を、カンパニーに与える必要がある。損益だけではなく、財政状態の管理をカンパニーに行わせるには、全社の資産・資本金をカンパニーごとに明確にすることが必須となる。さらにカンパニーのキャッシュフローも計算管理することが必要となる。これらの条件をすべて満たさないと、カンパニーに利益責任を負わせることはできない。

カンパニー制は、「社内分社」の仕組みであると言われるが、「社内分社」とは、独立企業としての「分社」に大きな意味があり、「社内」であることに関する本社のマネジメントを必要最小限にするのがカンパニー制では重要なのである。本社は、カンパニーを監督することがコーポレート・ガバナンスの観点から必要だが、カンパニーの業務には口を挟まないのが大原則である。つまり、カンパニーは社内組織であるが、限りなく独立企業として運営することがポイントである。換言すれば、業務に関する意思決定はすべてカンパニーに委ね、経営意思決定とカンパニーの管理監督を本社が行うというのが、カンパニー制の要諦なのである。

カンパニー制の導入とは、新規部門の創設、部門の統廃合、プロジェクトチームの立ち上げと廃止といったちょっとした組織変更ではなく、企業運営方法の抜本的な見直しである。カンパニー制の導入は、単なる組織変更ではなく、自社のあり方を根本から変革する試みなのである。しかし、そのことが十分に理解されていなかったのか、多くの企業では、カンパニー制度導入後に直面した多くの問題に対処できず、短期間の運営の後、あっけなくカンパニー制を放棄した。

カンパニー制の弊害とは

それではカンパニー制の弊害として指摘されたのは、どのような事項だったのだろうか。それらを列挙しよう。

・ カンパニーが自部門の利益を優先する部分最適行動をとった
・ カンパニー縦割りの傾向が高まり、カンパニー連携が困難となった
・ カンパニー間、カンパニーと本社との情報共有が進まなくなった

カンパニーは、与えられた責任権限のもとで、成長発展を図ることになるので、自カンパニーの業務執行に最大の努力を図るのは当然である。それが、カンパニー制による企業運営というものだからである。その結果、自カンパニー以外には、関心を示さなくなり、他カンパニーとの連携を図るという発想は希薄になってしまう。それに加えて、カンパニー間、あるいは、各カンパニーと本社との情報共有は進まなくなる。カンパニーの運営はカンパニーに任せたのだから、カンパニーの運営に集中する結果、情報共有まで手は回らなくなる。

本社からみれば、カンパニーのそのような行動は、全社企業運営の視点を欠いた部分最適行動を意味する。事業部制の時代には、事業部間連携がそれなりに機能していたのに、カンパニー制導入後は、そのような雰囲気が失われたと本社は嘆く。それは、皮肉なことだが、中途半端な利益責任しか事業部に与えられていなかったためであり、明確な利益責任を付与されたカンパニーでは、目前の利益目標達成に追われる結果、カンパニー間連携が中長期的には自分たちのカンパニーの利益にも貢献するかもしれないことがわかっていても、そこまで検討は及ばない。