革の光沢を引き出し、長持ちさせる磨き方

では、これまで靴に無頓着だった人は、何から始めればいいのか。

「今持っている靴を、磨くことから始めるのがいいでしょう。まずは綺麗な靴を身につける心地よさを体感することが大切です」(長谷川氏)

道具は何を揃えるべきか。靴磨きというと、よくスーパーのレジ横で売られているスティックタイプの液体クリーナーでひと塗り、という人も多い。だが「あれだけは、使わないほうがいい」と長谷川氏は警告する。

「綺麗になったように見えて、実は薬品で表面に膜をつくって光らせているだけ。革本来の光沢ではありません。何度も使用すると膜が分厚くなり、やがてボロボロと剥がれてきますし、革も傷みます」(長谷川氏)

<靴を長持ちさせる正しい磨き方>
(1)道具の用意
馬毛のブラシ、保湿・栄養
(2)汚れ落とし
馬毛のブラシで、靴に付着している泥やホコリなどの汚れを払い落とす。
(3)保湿・栄養を与える
ローションを布に取り、ムラなく全体に塗り込む。最後に同じ布で乾拭きする。
(4)型崩れ防止
磨き終えた靴に、シューキーパーを入れて靴棚に保管する。

写真は、長谷川氏に教えてもらった正しい靴の磨き方だ。革本来の光沢を引き出し、靴を長持ちさせる。また一度は、プロに磨いてもらうこともお勧めしたい。プロの仕上げを知ることで磨き上げられた革靴の美しさを知り、靴磨きの意欲も増すからだ。

磨き方を覚えたら、相応の質と製法でつくられ、長く履き続けられる革靴を新たに購入することもお勧めしたい。

安物の靴は革質が悪いうえに、アッパー(甲の部分)とソール(靴底)を接着剤でくっつけただけの「セメント製法」でつくられている(悪い靴の写真)。この製法は摩耗したり破損したりしたソールを交換できず、最初から使い捨て仕様になっている。

修理をしながら長く履き続けられるのは、アッパーとソールを糸で縫い付けるグッドイヤー・ウェルトという製法の靴で、革も上質なものが使われている(良い靴の写真)。ソールが摩耗や破損しても糸をほどいて交換でき、5年、10年と長く履き続けられる。

「3万円も出せば、グッドイヤー・ウェルト製法の靴を手に入れることができます」とは長谷川氏。この価格帯だと「リーガル」や「スコッチグレイン」といった日本メーカーのものが揃っている。日本製の靴はつくりが丁寧で長持ちするわりに、手頃な価格なのだ。

靴を長持ちさせる習慣のない人に、特に注意を促したいのは踵の減りだ。ここは人から一番見られるポイントで、減ったままにしていると、だらしない人だと思われる。「見た目が悪いだけでなく、減りすぎるとヒール本体まで傷つけて修理できなくなる危険性もある」(長谷川氏)。日頃から靴の踵をよくチェックしておいて、減ったらマメに交換する習慣をつけたい。

石原 明
僖績経営理舎代表取締役、日本経営教育研究所代表。売れる仕組みづくりや成長する組織づくりなどで、3500社を超える経営者を支援。欧州製の高級靴を愛好し、こまめに手入れをする。
 
長谷川裕也
BOOT BLACK JAPAN代表取締役。2004年、東京駅の路上で靴磨きを始め、08年東京・南青山に靴磨き専門店Brift Hを開店。同店の顧客には、大企業の経営者や資産家も多い。
 
(撮影=榊 智朗)
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