吉原には、客が女郎の抱えた借金を肩代わりし自分の妻や妾にする「身請け」というシステムがあった。身請けされた女郎たちはその後どうなったのか。歴史評論家の香原斗志さんは「さらなる不幸に見舞われた例は枚挙にいとまがない」という――。
小芝風花 女優
写真=時事通信フォト
小芝風花 女優(2018年12月4日、2019年オスカープロモーション晴れ着撮影会。東京都港区の明治記念館)

1億4000万円で身請けされた「瀬川」のその後

吉原遊郭の代名詞のような花魁、江戸町一丁目の大見世、松葉屋の五代目瀬川(小芝風花)は、盲目の大富豪である鳥山検校(市原隼人)に1400両(1億4000万円程度)で身請けされ、吉原を去っていった。NHK大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」の第10回「『青楼美人』の見る夢は」(3月9日放送)。

第11回「富本、仁義の馬面」(3月16日)では、「人妻」となった瀬川が登場した。即興で踊りや芝居をする吉原のイベント「俄」に、浄瑠璃の太夫で「馬面太夫」の異名がある富本牛之助(寛一郎)を呼びたい蔦重こと蔦屋重三郎(横浜流星)。発案者の大文字屋(伊藤淳史)と連れ立って、浄瑠璃の元締めでもある鳥山検校のもとを訪れた。検校に牛之介への口添えを頼もうというのだった。

検校宅に住まう瀬川は、いまでは「瀬以」と呼ばれていた。久しぶりに会った蔦重と親密なやり取りを交わすが、それを聞いていたのが「夫」の鳥山検校だった。2人の関係に不信感を募らせ、嫉妬を募らせる検校。蔦重に「力になれない」と伝え、一度、牛之助の浄瑠璃を聴いてみてもらえないかと頼まれても、つれない返事をする。瀬川が蔦重の後押しをするので、なおさら不信感を募らせた感じだった。

とはいえ、検校は牛之助の浄瑠璃を聴いて納得し、彼が「豊前太夫」を襲名することを認めるのだが、礼をいう瀬川に「そなたの望むことはすべて叶えると決めた」と、不気味なニュアンスを湛えて伝えた。今後、2人のあいだに不幸な展開が訪れることを、象徴しているかのようだった。