「なぜなぜ分析」を重ねる

エアコンのフィルターが詰まったら、フィルターを掃除しますね。フィルターを掃除すれば詰まりは取れますが、時間が経つとまたフィルターが詰まるという現象が再発します。単に表面的な原因を取り除いただけでは、根本的な解決には至らないのです。

エアコンのフィルター掃除
写真=iStock.com/amixstudio
※写真はイメージです

フィルターが詰まりを起こす根本的な原因が明らかになれば、再発しない対策を立てることができるわけです。そこで、真因を追求するために、現状分析で見つけた問題を具体化して「なぜ?」を繰り返します。「フィルターが詰まったのはなぜ?」と問いかけ、出てきた答えに対してさらに「なぜ?」を重ねていきます。

これは「なぜなぜ分析」と呼ばれている手法で、トヨタ自動車の問題解決の考え方から生まれました。今では世界的に活用されています。

Q.エアコンのフィルターが詰まったのはなぜ?

A.掃除をせずに放置していたから

Q.掃除をせずに放置していたのはなぜ?

A.担当者や掃除の頻度が決まっていないから

Q.担当者や掃除の頻度が決まっていないのはなぜ?

A.社内に明確なルールがないから

Q.社内に明確なルールがないのはなぜ?

A.議題として誰も提案してこなかったから

このように「なぜなぜ分析」を重ねていくことで真因が見えてきます。真因追求は問題が入り組んでいて複雑なときに有効です。なお、シンプルな問題で5Sなどですぐに解決できるものであれば、真因追求のプロセスを省くこともあります。

突き止められた操作ミスの真因

先ほどのCAの事例では、カートの操作ミスをする事例は若年層のCAが起こしていることがわかりました。そこで、なぜ若年層のCAがカートの操作ミスをするのかを「なぜなぜ分析」を使って追求してみました。

【図表1】真因の追求
ANAのカイゼン』P.68より

そうすると、トレーニングと実機での環境が異なるため実際の現場でのカートの重さがわからず、操作ミスにつながることが見えてきました。さらに真因追求を進めていくと、「近くに練習できる場所がないから練習できない」という真因が見えてきたのです。

川原洋一『ANAのカイゼン』(かんき出版)
川原洋一『ANAのカイゼン』(かんき出版)

ANAグループは、ABB(ANA Blue Base)という訓練施設を持っています。ここでは運航乗務員(パイロット)、客室乗務員(CA)、整備士、グランドハンドリングスタッフ、グランドスタッフなどが業務に必要な訓練を受けています。CAもここでしっかり訓練を受けているものの、現場配属後に、日々経験を積むことができる場所が近くにあるといいという声が出されたのです。

「カート操作を誤る」という事象を見ただけでは、「近くに練習できる場所がない」ことが原因だとは、なかなか思い至りません。しかし何度も「なぜ?」を繰り返すことによって、想像もつかなかったような真因にたどり着くことができます。現状分析から真因追求がしっかり進められれば、解決策の立案に苦労することはありません。

課題解決に苦労しているという企業は、この現状分析と真因追求に着目してカイゼンを進めてみてください。

川原 洋一(かわはら・よういち)
ANAビジネスソリューション講師

1985年ANA入社。航空機の整備現場、航空機部品の購買・修理管理、整備本部の戦略策定などの部門運営に携わる。整備本部企画チーム・マネジャー、部品事業室長などを経て、2018年にKAIZENイノベーション推進室長。2022年ANA退職。現在は講師として「ヒューマンエラーを起こしても事故にならない仕組みづくり」「安全をつくる取り組み」などについて、他業種の方々に研修や講演を行っている。