そのまま入れても汚れが落ちない、食器が入りきらない

2つ目の要因は、万能ではないこと。使った食器をそのまま入れるならラクだが、入れる前にサッと汚れを落としておく必要があるし、こびりついた汚れが残っていた、という覚えがある人もいる。作家モノなど高級な器は食洗機対応ではなく、うっかり入れてダメにした人もいる。そもそも和食器は入れにくい形が多いなど、欧米生まれの食洗機自体が日本の文化に合わない側面がある。

3つ目は入れ方に工夫が必要なこと。近年引き出し式のビルトイン食洗機が復活しているものの、ここ20年ほどは上から食器を入れるビルトイン食洗機が一般的で、しかも45センチ幅の小さめタイプが多かったことも加わって、入れ方を間違えると食器が入りきらない問題がしばしば起こる。欧米の食洗機は60センチ幅が主流である。

4つ目は、洗浄時間が長いこと。食洗機を稼働させると、乾燥終了まで1~2時間はかかるので、調理中に出たボウルや鍋などの汚れ物を食洗機で洗うと、食後すぐは稼働中で食器を洗えなくなってしまう。そのため、鍋類は手で洗う人が多い。洗い物から完全に解放はされないし、手洗い派と同じく洗ったモノを干すスペースも必要になる。

「手洗い上等」家事に対する完璧主義も導入を阻む

5つ目は、長年言われてきた普及を阻む要因で、家事に対する完璧主義だ。「自分で手を動かすのが理想の主婦」という呪いは確かにあったし、今も「さぼりたくない」と導入しない人はいるだろう。しかし、子育てしながらフルタイムで働く女性が増えたこの10年ほどで、SNSやメディアを舞台とする家事をラクにするムーブメントが起きた結果、呪いに囚われた人は減りつつある。

その他、「食洗機自体の掃除が発生するから嫌」、「手で洗う作業自体が好き」という理由で導入しない人もいる。

家事をラクにする方法は、食器洗いの追放だけではない。挙げた5つの要因と自身の事情を考慮したうえで、どちらがラクか考えたうえで決めるのが良い。

そして食洗機の導入が進まない最大の要因、狭さは、キッチンスペースを縮めてきた不動産側の問題である。住宅業界は男性優位の傾向がいまだに強く、家事をしない業界人が多いため、家は「くつろぐ」場であり、家事をして「はたらく」場とはあまり考えられてこなかった。リビングは広くなってもキッチンは狭いまま。そして、使いにくいキッチンを減らすための設計基準を設けてこなかった国にも原因はある。便利なはずなのに、買わない消費者のせいではないのだ。

家電量販店で食洗器を見る女性
写真=iStock.com/97
※写真はイメージです
阿古 真理(あこ・まり)
生活史研究家

1968年生まれ。兵庫県出身。くらし文化研究所主宰。食のトレンドと生活史、ジェンダー、写真などのジャンルで執筆。著書に『母と娘はなぜ対立するのか』『昭和育ちのおいしい記憶』『昭和の洋食 平成のカフェ飯』『「和食」って何?』(以上、筑摩書房)、『小林カツ代と栗原はるみ』『料理は女の義務ですか』(以上、新潮社)、『パクチーとアジア飯』(中央公論新社)、『なぜ日本のフランスパンは世界一になったのか』(NHK出版)、『平成・令和食ブーム総ざらい』(集英社インターナショナル)、『料理に対する「ねばならない」を捨てたら、うつの自分を受け入れられた。』(幻冬舎)などがある。