普及を阻むのは今も昔もキッチンの狭さ

普及を阻むと考えられる要因は、5つある。1つ目で最大の要因は、今も昔もキッチンの狭さだ。先の経産省のレポートでも、「キッチンに置くスペースがない」と明言している。2003年10月7日に放送された「プロジェクトX」(NHK)では、松下電器産業(現パナソニック)が1990年代に食洗機が売れない要因は置き場所がないこととわかり、30センチ幅の置き型タイプを発売したら売れに売れたエピソードが紹介されている。

番組放送から20年余り経った今も、キッチンが狭い問題は解決しないどころか、むしろ悪化している。昨年刊行した日本におけるキッチンの近現代史を調べた自著、『日本の台所とキッチン 一〇〇年物語』(平凡社)で調べた各種アンケートでも、狭さに悩む人が多いことが判明している。私自身が2021年から2023年にかけて60件を超える賃貸住宅を内見し部屋探しをした際も、キッチンが狭い物件が非常に多かった。

台所の担い手は、食洗機か収納スペースかで悩む

賃貸住宅の世界では、形ばかりのシンクと1口分のコンロしかないワンルームは当たり前だ。リーズナブルな物件になると、食洗機つきのキッチン自体が少ない。そもそも3LDKのファミリー物件でも、シンクと調理台、コンロがそれぞれ60センチ幅で合計180センチ幅のキッチンが結構ある。最近ではリノベした古い物件で、さらにキッチンの幅を狭めた例も目立つ。食洗機が入っていない賃貸住宅の住人でも、置き型タイプを入れることは可能だが、この状況ではただでさえ狭い調理台がなくなってしまいかねない。

分譲住宅なら自分の判断で食洗機を入れることができ、新築マンションではデフォルトの場合も多い。キッチンのスペースも比較的広い。しかし、不動産価格が上がり過ぎた昨今の状況は厳しい。分譲・賃貸問わず、キッチンのスペースが最も広かった1980~1990年代と比べ、ファミリー物件のキッチンはざっと見て1畳近く縮小している。食洗機を入れるか収納スペースを確保するか、は持ち家でも悩む場合が少なくないのだ。

狭いキッチンを使う台所の担い手は、「家電置き場が足りない」「食器やストックの食品はキッチンの外に置かざるを得ない」「調理道具を増やせない」「調理中の食材置き場が足りずにいつも苦労する」「食器などを断捨離した」といった悩みを抱え、食洗機どころではない。

たまたま住んだ部屋に食洗機が入っていただけの人の場合、「ストックの食材入れになっている」、「食器棚の一部になっている」といった声はよく聞く。食洗機が、足りないスペースの補充に使われてしまうのだ。それだけ、スペース不足が深刻とも言える。

著者が過去に住んでいた部屋のキッチン
筆者撮影
著者が過去に住んでいた部屋のキッチンは、幅1.8メートル、通路部分は1メートルしかなく、食洗機どころか、ストックの食材も入りきらなかった。