「いつもと同じ」は逆に危険
この三大伏兵のなかでも、とくに気をつけていただきたいのは「前頭葉の老化」です。
前頭葉の衰えが進むと、私たちの日常生活に大きな影響を及ぼし、意欲や創造性が失われ、さらにはうつ病のリスクも高まります。

より詳しく見ていきましょう。
前頭葉は脳のなかでもとくに「変化」に対応する部分です。意外な出来事や想定外の状況に直面したとき、瞬時に判断し、柔軟に対応する力を持つのがこの前頭葉の役割です。
ふだんと違うことをしなければならない場面で働くのが前頭葉であり、その働きによって新しい発想や解決策が生まれます。しかし、前頭葉が老化し始めると、逆に「ふだんと同じこと」を好むようになり、変化を避けようとする傾向が強まります。
たとえば、行きつけの店ばかりを利用したり、「同じ著者の本しか読まない」といった行動が増えていくのも、前頭葉の老化が原因のひとつです。
前頭葉の老化を防ぐ日常習慣
では、前頭葉の老化を防ぐためにはどうすればよいのでしょうか。
その答えは「新しいことに挑戦し続ける」ことです。
新しいことに取り組むことで、前頭葉は刺激を受け、機能を維持しやすくなります。たとえば、新しい趣味を始める、新しい仕事に挑戦する、旅行に出かけて新しい場所を訪れるなど、日常的に新しいことを取り入れてみてください。
本書が働くことを強くお勧めするのも、この「新しいことへの挑戦」を日常的に持続しやすくするためです。仕事を続けることで、新しい問題や課題に日々直面します。知らない方との関わりも増えるでしょう。社会のなかでも、真っ先に変化が訪れるビジネスの現場に身を置くことで、それに対応するために前頭葉を使う機会もおのずと増えていくのです。
1960年、大阪府生まれ。東京大学医学部卒業。精神科医。東京大学医学部附属病院精神神経科助手、アメリカ・カール・メニンガー精神医学校国際フェローを経て、現在、和田秀樹こころと体のクリニック院長。国際医療福祉大学教授(医療福祉学研究科臨床心理学専攻)。一橋大学経済学部非常勤講師(医療経済学)。川崎幸病院精神科顧問。高齢者専門の精神科医として、30年以上にわたって高齢者医療の現場に携わっている。2022年総合ベストセラーに輝いた『80歳の壁』(幻冬舎新書)をはじめ、『70歳が老化の分かれ道』(詩想社新書)、『老いの品格』(PHP新書)、『老後は要領』(幻冬舎)、『不安に負けない気持ちの整理術』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『どうせ死ぬんだから 好きなことだけやって寿命を使いきる』(SBクリエイティブ)、『60歳を過ぎたらやめるが勝ち 年をとるほどに幸せになる「しなくていい」暮らし』(主婦と生活社)など著書多数。