「過去問解禁」が6年生の2学期なのには理由がある
一般的に小学4年生から受験準備が始まる中学受験。小学校生活の半分を費やすビッグプロジェクトにおいて、志望校選びは重要だ。早いうちから決めておけば、勉強に対するモチベーション維持やアップも期待できそうだし、志望校に合わせた対策をすることで入試にも強くなると思われている節がある。
確かに志望校対策、すなわち過去問演習は受験勉強には欠かせない。だが、それは「適切な時期」に行うべきものだ。人よりも早くやったところで効果は望めない。むしろ、早い時期から「志望校に合わせた学習」に走ってしまうと、失敗に終わるケースが多い。
基本的に過去問対策は6年生の2学期以降から取り組むものだ。理由はちゃんとある。進度の早い遅いの違いは多少あるものの、多くの進学塾では6年生の1学期まで入試に必要とされる単元の授業を行う。ここで全部教え切ったところで、夏休みにもう一度総復習を行い、基礎力を高めてから志望校対策へとシフトチェンジしていく。
ところが、なかには少しでも早く過去問対策に取りかかっていたほうが有利と考え、塾からの過去問解禁指示を待たずに抜け駆けをしようとする家庭がある。しかし、基礎が危ういまま、過去問に取り組むと、「表面上だけ傾向に合わせる」といった学習に陥ってしまい非常に危険だ。
麻布を受けるとしても基礎知識は不可欠
こう言うと必ず返ってくるのが、「でも、麻布中の場合は違うでしょ?」という意見だ。男子御三家の麻布中は、塾のテキストや模試に出てくる内容とはかけ離れた独自路線の難問を出す学校として知られている。こういう学校は過去問対策が非常に重要になり、私もこれまでいろいろなところで「麻布を受けるなら過去問対策を徹底的にやるべき」と伝えてきた。こうした発信も影響してか、「麻布を受けるなら塾の勉強をしていても意味がない」と極端な考えを持つ家庭は少なくない。
しかし、どんなに塾のテキストや一般的な模試の内容とかけ離れているように見えても、中学受験に必要とされる基礎を疎かにして麻布の入試問題を解くことはできない。早い時期から過去問に取り組んだところで、麻布風のテクニックが身に付いたように錯覚するだけだ。
やはり、どんな入試傾向であっても基礎知識は不可欠で、麻布に関して言えば、それにプラスして子ども本人の生活体験が重要になってくる。例えば理科の振り子の問題なら幼少期にどれだけブランコで遊んできたか。社会の時事問題なら、日頃からどれだけ家庭で世の中について会話をしてきたか、といった生活履歴が理解の助けになる。