筆者が衝撃を受けた富山グルメ
私が富山で強烈なインパクトを受けた店は多々あるが、中でも東岩瀬の蕎麦店「くちいわ」や、魚料理の店「ねんじり亭」では、脳内をびかっと照らすスパークが見えたかのような感動があった。料理の提供スタイルや食材との向き合い方は両店とも非常にユニークで、富山にしかないというよりはそこにしかない唯一無二のスタイルに思える。共に温かい店だけれど客に必要以上におもねったりはしない。旅人であるこちらは心地よい緊張感を持ち、目の前で繰り広げられる初めての食体験を堪能し尽くした。

一方、高級店以外にも「ここだけの魅力」が詰まった店は多く、昨年末に訪れた町中華「柳の下 末広軒」などは、澄み切ったラーメンスープの品の良さに驚いて3日間の滞在中に二度行った。有名な“富山ブラックラーメン”はしょっぱすぎて……という人には、この店の懐石料理のように優しい中華そばをおすすめしたい。1杯600円という低価格は、もはや理解に苦しむほどだ。

料理の“映え”は二の次、三の次
そして、高級店でもカジュアルな店にも共通しているのが、その店がそこに存在する必然性を素直に感じさせてくれるところ。いわゆる“映え”の料理ではなく、店主によって考え抜かれた合理性とそれゆえの美しさがある。昨今、海産物が名物というわけでもない古都の有名な市場に華やかな寿司店が登場しており、盛大に写真を撮りつつ食べ歩きする外国人ツーリストをテレビで見た時は悲しかった。なぜなら、そこには土地に宿る宝物を伝えたいという心がない。
富山はその逆だ。計算ずくのツーリズム革命が起こっていないからかもしれないが、少なくともこの町の飲食店は無理をしていない。素直に成長を続け、年に数度しかやってこない客に媚びたりしない素敵なあんばいで営まれている。そしてそんなスタイルだからこそ、本質的な何かを求めてやってくる海外の旅人からも支持されていると言える。我々食いしん坊は、ただありがたくそれを享受するのみだ。「この先も変わらないでね」と願いつつ。