“富山詣で”をする世界のフーディーの目的は

「媚びない富山」を最も感じさせてくれるものは、この町の食にある。それを物語るのがここ数年増え続けている、富山ラブな“フーディー”(おいしいものを求めて世界中のレストランを巡り歩いている美食家のこと)と、それに呼応するかのように魅力を増しているユニークな飲食店の数々だ。

筆者の周りをざっと見渡しただけでも、富山に足繁く通い詰める食の猛者たちが大勢いる。星付きレストランのシェフや料理人、ワイン関係者やバーの経営者、飲食店アプリを運営する事業家や世界中を忙しく飛び回る台湾人フーディーまで、彼らは“富山詣で”を止めない。東京や京都、金沢で名店を食べ歩く人々が、次回の富山計画について嬉々として教えてくれたりする。

実際問題、東京で会う知人とレストラン情報を語り合う際にも、当然のように富山の店の名前が出るようになったが、今やそこに驚きは感じない。前出の台湾人フーディーは「東岩瀬(富山市北部にある旧市街)の通りで好きな店は、『御料理ふじ居』。特に蟹の季節ね!」と鼻息が荒いし、予約困難となったイノベーティブレストラン「L’évo(レヴォ)」に、予約を持つ友人がいないか探っているありさまだ。

富山県を代表する酒蔵の一つ「桝田酒造店」。満寿泉は都内の星付きフレンチレストランでも登場する人気の日本酒だ。
著者提供
富山県を代表する酒蔵の一つ「桝田酒造店」。満寿泉は都内の星付きフレンチレストランでも登場する人気の日本酒だ。

レストランランキングにも掲載多数

富山のレストランは権威ある飲食ランキングでも注目を集めており、例えば前出の「L’évo」は2024年度のレストランランキング「アジアのベストレストラン50」で67位につけた。南砺市の利賀村という山間部に居を構え、富山駅からでも車で1時間半はかかるという立地ながら、世界の食通が訪れていることをこの結果が物語っている。

『ミシュランガイド』でも、2021年に発行された北陸版では、金沢や能登を擁する石川県に次いで、富山県からは104軒が掲載された。

徒歩10分ほどで行き来ができる、東岩瀬の通りには6軒のミシュランガイド掲載店がひしめき、“密度の濃さ”でいえばおそらく世界的にも珍しいエリアではないか。だが、ひっそりと静かな東岩瀬の町を歩いていても、そんな様子は微塵も感じられないのがなんとも不思議だ。

夕暮れの東岩瀬を歩く。この界隈だけで6軒のミシュラン掲載店を有するが、町の静けさはそんな華やぎも包み隠しているようだ。
著者撮影
夕暮れの東岩瀬を歩く。この界隈だけで6軒のミシュラン掲載店を有するが、町の静けさはそんな華やぎも包み隠しているようだ。