子どもにとって一番かわいそうなこと

恵まれて欠乏を知らずに育った子にとって一番かわいそうなのは、欲望を抑えられずに成長し、自分で満足することができなくなることだ。

自然主義的教育の思想家ルソーは、著書『エミール』で「子どもを不幸にする一番確実な方法は、いつでも何でも手に入れられるようにしてやることだ」と述べた。

簡単に欲望が満たされる子どもは、欲しいものがどんどん増えていくばかりで、見るものすべてが欲しくなる人間になってしまう。すると最終的にどうなってしまうのか。

親がしてやれることには限界がある。いつかは子どもの要求を断らないといけなくなるだろう。ところが、断られることに慣れていない子どもは、欲しいものが手に入らなかったことよりも、断られたという事実によって苦しむことになる。

親が神様でもない限り、このような要求をどうやって満たしてやれるのかとルソーは言う。

膝を抱えて泣く子ども
写真=iStock.com/PORNCHAI SODA
※写真はイメージです

欠乏が動機を生む

今の子どもは、欠乏という言葉を知らない。韓国でもアメリカでも、あふれんばかりの豊かさのなかで生きている。だから、自分から何かをしたいという欲が生まれないのだ。

シム・ファルギョン『3人の娘をハーバードに合格させた 子どもが自ら学びだす育て方』(かんき出版)
シム・ファルギョン『3人の娘をハーバードに合格させた 子どもが自ら学びだす育て方』(かんき出版)

欠乏があってこそ動機が生まれ、動機があると原動力になり、何でも自分の力でやってみようという意志と、努力する気持ちが生まれる。この過程で達成感も味わえる。よって、子どもを育てる際には、ある程度の欠乏が必要だ。

子どものために何をしてあげようかと考えるより、何をしないでおくべきかを考えるほうが賢明だ。私は親として、どうすればやってあげないですむのか、どうすれば子どもに苦労させることができるのかを真剣に考えた。

だから、うちの子どもたちは、私から何かをもらおうとするなら、とても面倒だとわかっている。しっかりと論理立てて母親を説得し、妥協し、同意を得るために努力しないといけなかったからだ。

シム・ファルギョン
主婦

韓国でキリスト教教育で修士学位を取得した後、同じ大学で神学を学んでいた夫と結婚。夫の留学を機にアメリカに移住。アジア人移民は社会的にはマイノリティーであり、さらに牧師の家庭だったため経済的にも苦しかったが、入試コンサルティングはもちろん、塾にも行かせず、一般の公立学校に通った3人の娘全員をハーバード大学に入学させた。三姉妹がハーバードに合格したあとも「私はごく平凡な人間で、特別なところは一つもない。すべて子どもたちが成し遂げたことだ」と述べ、多くを語らなかったが、『3人の娘をハーバードに合格させた 子どもが自ら学びだす育て方』(かんき出版)で初めてそのストーリーを惜しみなく公開。子どもの教育や育て方に関する講演を活発に行いながら、多くの親の悩みを聞いて共感し、読者一人ひとりと目を合わせるような温かいメッセージを伝えようとしている。