「ここだけは譲れない」条件は何か
そのうえで、もし今の会社を辞めたとしても、自分の理想にぴったり合う職場はなかなかないだろうということを伝えてほしいと思います。やりたい仕事ができても職場が遠かったり、リモート勤務が可能で働き方が柔軟でも人間関係が良くなかったり、やりがいのある仕事ができても給与などの待遇が良くなかったり……一長一短があることがほとんどです。
そして、100点満点の会社は存在しないのだということを前提に、もう一度「ここだけは譲れない」という1つか2つの条件について、一緒に考えてみてください。もしかしたら、今の職場で既に満たされている可能性もあります。また、一見満たされていないように思えても、見方を変えたり、何かの工夫(本人の工夫になる場合も、上司や会社側の工夫になる場合もあるでしょう)をすれば、満たすことができるかもしれません。
その場合は、抱えているほかの不安や不満を丁寧に聞き出しながら、「今、無理に辞めなくてもいいのではないか」「今の職場で、おもしろさを見つけ、成長できるやり方を考えてみてはどうか」と、説得してみてもいいと思います。
雰囲気に踊らされていないか、“青い鳥”を求めていないか
最近の若手社員は、転職を考えている様子をまったく見せることなく、突然退職の意向を伝えてくることが多いようです。辞めそうだなという予兆がまったく捉えられないので、離職を防ぐのも非常に難しいようです。
最近話題になっている退職代行を利用するケースもよく耳にします。メディアでは、「ブラック企業なので辞めたいけど、なかなか辞めさせてもらえないから退職代行を利用する」などのケースが取り上げられていますが、実際は、退職を言い出す勇気がないから利用するというケースが多いように感じます。
転職は悪いことではありませんし、若手は「若い」というだけで市場価値も高い。しかも、今は売り手市場なので、少しでも今の職場で不満や不安があると、「ほかにもっといいところがあるのでは」と“青い鳥”を追い求めたくなる気持ちもわかります。ただ、そういった雰囲気に踊らされてはいないか、世の中に存在しないような100点満点の“青い鳥”を求めてさまようようなことにならないか、ちょっと立ち止まって考えてみた方がいいのではないか。そんなアドバイスを上司からしてあげてほしいと思います。
構成=池田純子
産業医・精神科医・健診医として活動中。産業医としては毎月30社以上を訪問し、精神科医としては外来でうつ病をはじめとする精神疾患の治療にあたっている。ブログやTwitterでも積極的に情報発信している。「プレジデントオンライン」で連載中。