「自分は話が聞けていない」ことに気づかない社長
相手の言葉をさえぎって話す人は、「相手の言葉をさえぎっている」という自覚がなく、それが癖になっていることがあります。
そういう人は「自分は話が聞けていない」ことに気づかないのです。
数年前、カフェで本を読んでいると、隣の席に60代くらいの男性と30代くらいの女性が座られました。何やら2人とも険悪な様子。その会話が漏れ聞こえてきたのですが、社長が女性職員の退職を引き留めようとしていました。
「カフェでそんなデリケートな話をするとは……」と驚きましたが、その引き留め方は目を覆いたくなるようなひどいものでした。
女性「もうこれ以上無理です。何を言ったってどうせ聞いてもらえないでしょうから、今月いっぱいで辞めさせてもらいます」
社長「だから今辞められたら困るって言ってるじゃないか」
女性「社長が困るかどうか知りませんが、私はもう無理なんです。いつも私のほうが折れて我慢し……」
社長「(女性の言葉をさえぎって)そんなことないだろ。いつも要望は聞いているじゃないか」
女性「全然聞いてくれないじゃないですか。聞いているふりだけして、まったく対応する気がないじゃ……」
社長「(女性の言葉をさえぎって)そんなことないだろ。私だって会社のために一生懸命やってんだ。大変なんだよ。それでも不満を聞こうとしてるじゃないか」
女性「ほら、またそうやって私の話を聞かずに一方的に言ってくるじゃないですか。だから私は全然言うことを聞いてくれない……」
社長「(女性の言葉をさえぎって)違うだろ。何を言っているんだ。ちゃんともう1回話し合おう」
女性「もういいです。今月いっぱいで辞めさせてもらいますから」(店を出ていく)
社長「ちょっと待ちなさい」(後を追いかけていく)
共感を疎かにしていないか
女性職員の話を最後まで聞かず、途中で話をさえぎって話す社長。
その話し方を見れば、相手の気持ちを受け止める気がなく、自分の気持ちを一方的に通そうとする人だということがわかります。経営もそういうやり方をし、部下に愛想をつかされたのでしょう。
この社長も、自分が部下の話を聞けていないことに気づいていないと思います。
この例ほどひどくはないかもしれませんが、部下の話が聞けていないことに気づいていない上司は少なくありません。
そういう上司にならないよう、部下の話を聞く際は、話をさえぎっていないか、共感を疎かにしていないかに留意してください。