朝ドラで描かれた主人公寅子の夫が「理想の旦那すぎる」と話題になった。一方、令和の日本で妻を全力応援・サポートする夫が増えないのはなぜか。『妻に稼がれる夫のジレンマ』の著書があるジャーナリストの小西一禎さんは「休職や退職し妻の赴任地で妻を支える駐夫たちは、稼ぐ力=稼得能力を喪失した自身に呆然とする。彼ら自身が稼得能力こそ男性性という考えから解放される過程で苦しむうえ、周囲の理解も乏しく、ジェンダー平等の進展は大きくない」という――。

朝ドラの男性の登場人物の注目

「寅ちゃんができるのは、寅ちゃんの好きに生きることです。また弁護士をしてもいい。別の仕事を始めてもいい。優未の良いお母さんでいてもいい。僕の大好きな何かに無我夢中になってる時の寅ちゃんの顔をして、何かを頑張ってくれること。いや、やっぱり頑張んなくてもいい。寅ちゃんが後悔せず、心から人生をやりきってくれること。それが僕の望みです」。

仲野太賀=2018年11月
写真=共同通信社
仲野太賀=2018年11月

NHK朝の連続テレビ小説「虎に翼」が多くの人の支持を集め、絶好調だ。とりわけ、戦時色が濃くなった5月下旬の放送回からは、1話ずつの内容があまりにも濃い上、登場人物たちの喜怒哀楽が激しく交錯する波乱の展開が続き、朝から涙腺が「崩壊」している人も少なくないのではないだろうか。ちなみに、私もその一人だ。

実話をモデルにしたフィクションである本作を巡っては、主人公の猪爪寅子(伊藤沙莉)らが新たな時代を切り開こうとする中で直面する多くの困難など、主に女性の登場人物に対する指摘がなされてきた。放映後のSNSには、彼女らに自分を投影し、共感を寄せる投稿が数多く寄せられる。

そこで今回は、男性目線から捉えた男性登場人物の生き方や価値観に焦点を当て、令和の現代と何が変わって、何が変わっていないのか、今も日本が抱える社会課題と重ね合わせながら、考えてみたい。

寅子の夫の遺言

冒頭の台詞は、寅子の夫・優三(仲野太賀)が戦地に赴く前に、寅子の手を取りながら語りかけた言葉だ。結果的に遺言になった口調は優しさに溢れ、心の底から包み込むような視線を注ぐ。以前から好意を寄せながらも、叶わぬ恋と思っていた優三。日本初の女性弁護士になった寅子との結婚後も、彼女に対するリスペクトは何ら変わることなく、法廷に立ち、弁護士としてのキャリアを着々と積み上げていく寅子を全力で応援してきた。

妊婦になった後も働いていた寅子は、周囲から「仕事よりも子育てに専念すべき」との声にさらされる。女性弁護士の誕生に期待を寄せ、長らく慕ってきた大学女子部時代の恩師・穂高(小林薫)からも「それは仕事なんかしている場合じゃないだろう。結婚した以上、君の第一の務めは、子を産み、良き母になることじゃないのかね」との言葉を突き付けられ、絶望。仕事と子育てを両立させる道への限界を感じ、法律事務所を辞めた。

仕事を辞めて家事・育児の日々に転じた寅子に対し、優三は特に何も言うことなく、これまで通りに接してきた。そこに、召集令状が届いた。優三はこれまでの思いを一気に吐き出すかのように、妻が思うように生きることこそ、夫としての喜びだと伝えたのだ。