「男だからって全部背負わなくていい」
「でも、今そんなこと言っていられる状況じゃ(ない)。僕は猪爪家の男として、この家の大黒柱にならないと」。
寅子の弟・直明(三山凌輝)は若干20歳にして、直言や優三の亡き今、大黒柱としての役割を背負うとの使命感を口にした。好きだった学業を志半ばで諦め、男手一つで頑張るとの悲壮感すら漂わせる直明に対し、寅子は「そんなものならなくていい。新しい憲法の話をしたでしょ。男も女も平等なの。男だからってあなたが全部背負わなくていい。そういう時代は終わったの」と声を張り上げた。今で言う「大黒柱バイアス」に陥りかけた直明の学費も含めて、自分が稼ぎ手の中心となって猪爪家を守り抜く決意を示したのだ。
法の下の平等を掲げた日本国憲法の概要を新聞で知った寅子は、優三からの温かい言葉を思い出し、大粒の涙を流す。「後悔せず、人生をやりきってほしい」との優三の思いを励みに、男女平等が実現することを確信して、再び司法の道へ歩み始めていく。
「妻を支える夫たち」の葛藤
戦後の昭和から、時代は平成を越え、新たな時代に突入した。長時間労働に代表される日本的雇用慣行のもとに男性優位社会が築かれ、いまだ家事・育児の負担は女性に偏っているのが実情だ。男性稼ぎ手社会の行き詰まりが指摘される中でも、「男がメインで稼ぎ、家族を養うべきだ」、「男たる者、かくあるべし」という男性性(男らしさを求める意識)の呪縛に苦しめられる。
男性の頑なな価値観は、女性パートナーの生活とキャリアを直撃し、女性もしわ寄せを受ける。共働きであっても「男は仕事、女は仕事と家事・育児」とする硬直的かつ固定的な性別役割分業意識は、令和の今も影を落とし、男も女も生きづらさに直面している。
普段はドラマをあまり見ない私が、「虎に翼」にすっかりハマったのはなぜか。海外勤務となった妻に同行するため、仕事を休職する形で一時的にキャリアを中断し、米国で駐夫を3年間にわたって経験した自らと、自分の夢を断念し寅子を支える立場を受け入れた優三との間に相似する何かを感じ取ったからだ。
自分のキャリアよりも、海外駐在というチャンスを掴んだ妻のキャリアを優先する決断をした駐夫たちの葛藤について、1月に上梓した『妻に稼がれる夫のジレンマ』で描いた。休職や退職した後、妻の赴任地に向かった彼らは、稼ぐ力=稼得能力を喪失した自身に呆然とする。「稼得能力こそ男性性」との潜在意識を突き付けられ、収入面で完全に妻に依存することになり、アイデンティティークライシスに陥った。妻のキャリアを尊重した彼らも「男は稼いでなんぼ」というジェンダー役割に縛られていたと思い知らされた。